青春18墓参行ふたたび

 2011年9月「青春18墓参行」と題して、青春18きっぷで私とマダム双方の父方の祖父母の墓参りをした話を書きました。
 私の祖父母の墓が高尾にあり、マダムの祖父母の墓が前橋にあり、その両方の墓参りを一日のうちに済ませるという試みで、そのルートとして八高線を用い、のんびりと鉄道に揺られようというわけです。八高線は、マダムの祖父が聖蹟桜ヶ丘に居た息子(マダムの父ではなく伯父さんにあたる人です)を訪ねる時に毎回使っていたということで、この首都圏随一のローカル線を利用するというのはマダムからの要望だったのでした。
 一昨年それを催行したものの、行程作成者としてはいくつか反省点がありました。まず、高尾までのルートは、大宮から武蔵野線を経由して八王子まで走る「むさしの号」を使ったのですが、それまで同じルートで運転していた「快速むさしの号」と違って、通勤型の205系209系、つまり普通の武蔵野線電車と同じ車輌を使っており、あんまり面白くなかったことです。「快速むさしの号」は中央線の高尾以西などで使われていた115系で、セミクロスシートになっており、武蔵野線を走る時にちょっとした非日常を愉しめたのですけれども。

 それから、八高線の接続がよろしくなく、電車からディーゼルカーに乗り換える高麗川で45分も空けてしまったこと。いや、高麗川があれほどなんにもない駅前でなければ、45分くらいフリータイムがあっても構わなかったのですが、本当に時間をもてあましてしまう駅なのです。
 今年も夏休みに使った青春18きっぷが余っていたので、今日、同じような行程で墓参りをしてこようということになったのですが、上記の反省をふまえて、スケジュールを再検討してみました。
 高麗川の乗り換えをなるべく短時間にするよう設定し、「むさしの号」ではなくて「ホリデー快速富士山」を使用することにしました。結果的に、家を出るのが前回より30分ほど早い7時半となり、八高線のディーゼルカー部分を1本早い便にし、そのおかげで前橋の墓に着くのも早い時間になりました。夕方前には用が済むので、今回は前橋駅前の日帰り温泉に立ち寄って寛いでくることにしたのでした。出発が朝早くなったのはしんどいことですが、そこで30分早めたおかげで、最終的には1時間以上稼げたことになって、余裕のある行程となりました。

 もうひとつ、これは私のというよりも「私たちの」反省ですが、前回、高尾の墓に供えるつもりのお花は前日に近くのスーパーマーケットで入手しておきました。しかし前橋の墓までは何時間も持ち回ることになるので、花がもたないだろうと考え、そちらの供花は前橋に着いてから買おうということにしたのでした。そのさらに以前、2008年の年末に墓参りをした際には、前橋駅前にあったイトーヨーカドーで買えたので、その時もそうするつもりで行ったわけです。
 ところが、一昨年行った時にはそのイトーヨーカドーが潰れてしまって、駅前にしかるべき大型店舗が無くなっていたのでした。あれにはあっけにとられましたね(^_^;;
 上毛電鉄中央前橋駅まで歩いて移動するあいだに、なんとか入手できないかと思ったのですけれども、途中にはスーパーマーケットも花屋も見当たらず、中央前橋駅を行き過ぎてもう少し行ったところにようやく花屋がありました。ちゃんとした花屋で買ったものですから、だいぶ高くつきました。
 今回調べてみると、前にイトーヨーカドーがあったところには、ショッピングモールと呼べるのかどうか、多数のテナントが入った駅前商業施設になっているようでしたが、その中にスーパーや花屋が入っているのかどうかよくわかりません。それで、両方とも前日にマダムが買ってきておきました。今朝までずっとバケツの水につけおき、出かける前にたっぷり湿らせたティッシュペーパーでくるんでアルミホイルを巻き付けて、途中でしおれないように気をつけました。このくらい気を遣っておけば、スーパーで買ってきた花であっても、あの世の祖父母たちはまあ喜ぶのではないかと思います。

 前回と違って、雨がちの天候でした。かんかん照りであれば花も元気がなくなったかもしれませんが、おかげで最後までなんとかもってくれたようです。
 しかし、昼頃までは東京都周辺が雨、昼過ぎからは北関東方面が雨になるという憂鬱な予報でした。これではどちらの墓に参る時も雨が降っていることになりそうで、順序を逆にするべきだったかと思ったりします。
 しかし、もう予定を立て直す余裕はありません。計画どおり、大宮へ向かいました。川口駅までの道では、まだ雨は落ちてきていませんでした。
 「ホリデー快速富士山」には、ついこのあいだ乗ったばかりです。実のところ今回の墓参行の下見というつもりもありました。前身の「ホリデー快速河口湖」時代と同じように旧特急車を使っているか、編成輌数は、大宮駅ではどこで待機していれば良いのかなど、マダムを連れた状態で迷わないように予習しておいたわけです。
 「河口湖」時代とそうは変わっていないような気はしましたが、「快速むさしの号」と「むさしの号」の落差の例もありますから、確かめておくに越したことはありません。結果、そう大きな違いはないことがわかって安心しました。ただ「河口湖」時代は大宮が始発でしたが、「富士山」となって小山始発となり、従って大宮で必ず坐れるという保証が無いのが心配と言えば心配でした。
 が、小山からの乗客の中で、大宮で下りてしまう人がずいぶん居ました。特別料金が不要で、ふだん乗っている211系E231系などの通勤車輌よりも格上の特急車輌ですから、別に河口湖や富士山へ行くつもりがなくとも、時間が合えば乗りたくなるでしょう。
 私たちも同様です。特急車輌ということで、マダムはご満悦でした。朝が早かったので朝食をうちでとらず、弁当を持ってきていたのですが、その弁当も心おきなく拡げられます。ロングシートの通勤車では、お菓子や飲み物程度ならまだしも、食事をするのはさすがにはばかられます。
 新小平を過ぎて、中央線に合流するあたりでえらく徐行したので、ダイヤが乱れているのかと心配しましたが、幸い定刻9時19分に高尾に到着しました。

 私の祖父母の墓は都立八王子霊園にあって、高尾駅北口からは頻繁にそこを通るバスが発着しています。系統番号に「霊園」という文字が入っているので判別も容易で、重宝します。駅舎から出てみると、バスターミナルに早速1台停まっているのが眼に入りました。先を急ぎますのですぐに乗り込みます。
 バスはわりと長い信号にひっかかったり、経由する高尾街道が渋滞していたりすることがよくあって、急ぐ時にはやきもきするケースも少なくないのですが、今日はわりとスムーズに走りました。
 バスを下りると、まだ雨は落ちてきていないものの、いつ落ちてきても不思議ではないような重たげな雲の色です。さっさと済ませてしまいましょう。
 この霊園は非常に広い敷地を持っており、なおかつ墓石の形が決まっています。ほぼ同じ形の墓石が見渡す限り整然と並んでいますので、目当ての墓を探すのが大変だったりします。区番号、列番号、区画番号がきっちりとつけられて、それらの表示もはっきりしていますので、アドレスを知っていれば簡単なのですが、うろ覚えだと不安になります。
 一昨年参る時に母にアドレスを聞いて、手帳に書いてあり、今回もその手帳を見はしたのですが、愚かなことに今年の手帳に書き写すことを忘れていました。だからまさに「うろ覚え」状態です。
 それでもまあ、ところどころに立てられている平面図と、記憶にある地形と、ぼんやりとうろ覚えている番号とを照らし合わせて、祖父母の墓に辿り着きました。
 管理のしっかりした霊園で、草むしりや掃除をする必要はありません。供花を活け、お供え物(祖父の好きだった東ハトオールレーズン)を置き、さて線香に火を点けようとしてトラブルが発生しました。ライターが点火しないのです。
 昨夜確認した時はちゃんと点火したのですが、どうもそれが最後の奮闘であったようで、一瞬炎は立ってもすぐに消えてしまいます。マダムがしばらく頑張って点火しようとしていましたが、あまりらちはあかず、仕方なくちょっとだけ焦げた線香を挿してそれでお茶を濁しました。マダムは私を批難しましたが、確認を怠ったわけではないので、これは残念な事故であったと言えましょう。

 バス停まで戻る途中で、ついにポツポツと雨滴が落ち始めました。まだ霧がまとわりつくくらいの感じですが、先を急ぐことにします。
 高尾駅まで戻って、駅近くのコンビニで新しいライターを買い求め、中央線の電車に乗ります。2駅だけ乗って八王子で下り、八高線電車に乗り換えます。実は予定よりも1本早い中央線に乗れたのですが、八高線のほうは同じ便です。
 この電車に乗ると、高麗川駅で2分の接続で高崎行きディーゼルカーに乗り継げます。時刻表で確かめたので間違いはないはずです。
 ところが、ネットの乗り換え案内で検索してみると、この電車(1177E)とディーゼルカー(237D)は、接続列車としては扱われていないので不安になりました。高麗川なんてそんな大層な駅ではなく、たとえ階段を昇り下りするにしても2分あれば充分乗り換えができるはずなのですが、237Dに乗り継げるのは1177Eより一本前の1075Eしか出てきません。
 さらに、1177Eは八王子を11時08分に発車して高麗川に11時45分に着くことになっています。所要時間は引き算すれば一目瞭然、37分です。しかし、八王子駅の八高線プラットフォームに掲げられていた「各駅への所要時間」の表を見ると、高麗川までは48分と記されているではありませんか。単線区間ですから所要時間にもばらつきがあるのはやむを得ませんが、ほんの30キロ余りで11分も差が出るのは不自然です。
 まさか、1177Eの高麗川着を間違えて見ていたのだろうかとにわかに疑心暗鬼にかられ、あわてて時刻表をひっぱり出して確認しました。
 やはり高麗川着は11時45分であり、その前後の駅の到着時刻を見ても誤植ではないようでした。列車交換などが例外的にスムーズで、ほとんど待ち時間無く走れる便であったとしか考えようがありません。
 実際、駅で交換列車を待たされることはありませんでした。電車はちゃんと45分に高麗川に着き、同じプラットフォームの対面で簡単に237Dに乗り換えることができました。ネットの乗り換え案内は、もしかしたら2分くらいでは乗り換え時間として認めていないのかもしれません。やはり頼りになるのは時刻表(JTB版にしろJR版にしろ)だな、と、年来の時刻表ファンである私は大きくうなづいたのでした。

 発車2分前に乗り込んだわけなので、237Dの座席は大半ふさがっていました。11時47分発の237Dの前の便である235Dは10時16分発、次の便である239Dは12時52分発(これが一昨年乗った便です)と、八高線の非電化区間の便数は、首都圏の路線にしてはえらく少ないものですから、どうしても乗客がたまってしまいます。しかも走っているディーゼルカーは、座席数の少ないキハ110系で、2輌編成しかありません。昔のように朱色のキハ20系が4輌も連なって空席だらけというのも非効率ですから、まあやむを得ないことではありますが、マダムとふたりで並んで、もしくは向かい合って坐れる席がまったく無いというのも残念なことです。マダムは1席だけ空いていた4人掛けボックスシートに坐り、私は何駅か立ったのちに前方のロングシート部分に坐りました。さらに何駅か進むと、ロングシート部分に空きができたので、マダムもそちらに移ってきました。並んだり向かい合ったりできるボックス席は、高崎までついに出現しなかったようです。かなり利用率は良い路線なのです。
 私はどうもロングシートに乗っていると、あまり落ち着けないたちなのですが、マダムは
 「やっぱり八高線に乗って良かった。すごくのんびりできた」
 と述懐していました。それならまあ、良かったと言うべきでしょう。
 高崎着13時08分。昼食は高崎か前橋でとろうと思っていましたが、マダムの要望により高崎にて。駅の外まで出ている時間は無いので、駅ビルの中で済ませました。ビール会社の経営するチェーンレストランですが、同じチェーンでも、心なしか、例えばサラダの野菜が東京近辺よりおいしい気がしました。群馬県は野菜の栽培では全国でも首位を争うようなところですが、それがこういうちょっとしたところに顕れてくるものなのかもしれません。

 高崎から前橋方面(両毛線)へは、日中はほぼ等間隔ダイヤになっており、毎時6分、26分、46分に電車が発車します。14時26分の宇都宮行きに乗ることができました。前橋までは15分です。
 今年の夏の甲子園で、前橋育英高校が初出場にして優勝してしまったので、街は雨に沈みながらも、なんとなくまだ浮き立っています。駅前ロータリーに舞台がしつらえられて何やらパフォーマンスがおこなわれているようですし、メインストリートにはいくつもテントが並んで出店のようなことをやっています。
 イトーヨーカドーの跡地に建ったショッピングモール「エキータ」をちょっと覗いてみましたが、スーパーマーケットのようなものは入っていないようでした。花屋は、事前の予習によれば入っていたはずなのですが、見た範囲には見当たりませんでした。別のフロアだったのかもしれません。やはり、持ってきておいて良かったということになります。
 また中央前橋まで歩きました。
 「中央前橋まで行くバスって無いの?」
 と、珍しくマダムが弱音を吐きました。雨降りで傘をささねばならず、昨夜は少々寝不足気味だったようなので、くたびれてきたようです。
 前橋から中央前橋までは約1キロほどで、歩けば15分くらいで移動できますが、途中でどうしても大きな歩道橋を渡らざるを得ない箇所があります。階段の昇降というのは、平坦な道なら10倍くらいの距離に相当する面倒くささと言えそうです。
 中央前橋駅に着くと、バスターミナルにレトロバスが停まっていました。前橋駅と中央前橋駅を結んでいるシャトルバスで、上毛電鉄の電車の到着に合わせて運行しているようです。前回は墓参りのあと、中央前橋に戻らず終点の西桐生まで行って、桐生〜小山〜大宮というルートで帰ってきましたが、今回は戻ってくるため、その時にレトロバスが居たら乗ることにしよう、とマダムに提案しました。

 中央前橋発の上毛電鉄の電車は、完全に等間隔で、毎時15分、45分に発車します。15時15分の電車で、マダムの祖父母の墓地の最寄り駅である心臓血管センターに向かいます。この駅に向かうのはもう3度目ですが、切符に記された、「センター」を省略した「心臓血管」の文字は、いつ見てもいささかギョッとします。
 心臓血管センターまでは12分、必ずこの駅で列車交換するので、上りも下りも毎時27分、57分の発車ということになります。それを頭に置いて、墓地への道を辿ります。
 最初にふたりで来た時はだいぶ迷いました。私はもちろん霊園内の地理に不案内でしたし、マダムも義父の運転するクルマで来たことがあるばかりで電車の駅から歩いたことは無かったので、墓を見つけるまでだいぶ時間がかかりました。クルマで来た時に駐車する事務所の前まで行って、そこからマダムの記憶に頼って探し、ようやく見つけたのでした。
 次に来た時、つまり前回は、まず事務所を目指すのが結局いちばん近道であることがわかっていたので、わりとすぐ見つけられました。
 今回は道順も明確に記憶しており、事務所から墓までのルートもマダムがしっかり憶えていたので、まったく迷いませんでした。
 高尾の霊園と違い、こちらは草むしりや掃除をしなくてはなりません。そのための用具(軍手や雑巾)は持ってきたのですが、小雨になったとはいえ雨が降っているので作業が厄介です。地面が濡れていて、荷物を置く場所もありません。花を入れてきた袋と、ゴミ袋にするつもりで持ってきたポリ袋を地面に敷き、その上に荷物を置いて、マダムの傘をさしかけました。
 石畳になっていないところはぬかるんでいて、草をむしるとなおさら泥がはねたりして、白いシャツを着てきていた私は神経を使いました。地面に膝をつくこともできませんので、姿勢が不安定で無用に疲れます。
 おまけに巨大な蚊が近寄ってきます。一応虫除けスプレーを吹いてはいるものの、効果があるのか無いのか、巨大な蚊はあんまり遠慮した様子でもありません。
 ほうほうのていで、掃除も適当に済ませ、急いで手を合わせて退散しました。ただ、参っているあいだに雨は上がったようです。西のほうの雲が切れて、夕方の陽光が洩れかかっているのが見えました。
 帰りの電車は、内装が水族館のような意匠になっていて、見た目も涼しげでした。「はしる水族館」と表示が出ていました。沿線のどこかに水族館があってそことコラボでもしているのかと思いましたが、そういうわけではなく、上毛電鉄独自の企画だったようです。

 今日は関東各地が真夏日で、31度くらいまで上がる予報でしたが、今までのところ、そんなに暑いとは感じませんでした。ただ常に湿度が高い状態でしたので、蒸し蒸しします。私たちの来ている服は、湿気と汗を含んでじっとりと重い感じでした。早く温泉に入りたいものです。
 中央前橋駅にはやはりレトロバスが停まっていました。私たちは駅の両替機でちょっと手間取っていて、駅舎から出るとちょうど発車するところでしたが、手を振るとドアを開けてくれました。外装だけでなく、内部もレトロ調で、座席はすべて木製になっています。何度も見かけてはいたのですが、乗ったのははじめてでした。運賃は100円です。
 前橋駅に着き、駅舎内の土産物屋を少し覗き、それからロータリーに出てダンスパフォーマンスをちょっと見てから、温泉へ向かいました。よくある、ボーリングで噴き出させた都市型温泉でしょうが、泉質がなかなか良いようです。前橋駅から徒歩3分ほどというロケーションが非常に便利です。
 ……が、マダムが、その近くのテントでやっていた「香り付きしおり作り無料体験」をやってみたいと言い張りました。もう店じまいしているのではないかと思いましたが、テントへ行ってみるとまだやっていたので、一緒にやってみました。
 再生紙みたいな紙質の無地のしおりに、動物や植物などをかたどったスタンプを捺して絵にし、裏面には押し花をシールにしたものを貼り、ストラップの部分にアロマオイルを垂らすという簡単な作りかたで、マダムと私とで1枚ずつ作成しました。作ったものはもちろん貰えます。
 私はあまり気乗りしていなかったのですが、これが案外あとで役に立ちました。というのは、風呂場のロッカーに荷物を入れて入浴したあと、ロッカーを開けると、当然ながらえらく汗くさい匂いが立ちこめるはずなのですが、さっきしおりに一滴だけ垂らしたミントオイルの香りが、そのむさ苦しい匂いを制してロッカー内に漂っていたのでした。
 足裏マッサージを受け、夕食も中の食堂でとり、20時ちょっと前まで風呂屋に居て、20時09分の快速「アーバン」で帰りました。
 青春18きっぷの元は充分とった上、万歩計によれば1万4000歩近く歩いたようでもあります。足裏マッサージで疲れもとれたし、良い休日であったと思います。

(2013.9.8.)


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