忘れ得ぬことどもII

セウォル号事件

 韓国の貨客船「セウォル号」の転覆・沈没事件は、大変いたましい話だとは思うのですが、この件について新しいニュースが届くたびに、なんだか変なことになっているなと、苦笑とも唖然ともつかない気分にさせられます。
 船が転覆したのは、どう考えても無理な過積載で無理な操船をおこなったためです。この船は日本製の中古だったそうですが、まず韓国に引き取られてから客室を一層付け加えられています。これだけですでに重心が上がってしまって危険なわけですが、そこへ、本来許される何倍もの貨物や車輌を積み込んでいたというのですから無謀そのものです。
 過積載した分量だけのバラスト水を捨てて、全体の重量が同じになるようにしていたというのがまたとんでもない話で、重さは同じでも重心がさらに上がってしまい、転覆の可能性が激増するのは小学生でもわかることです。
 もともとそうやって不安定な状態であるところへ、航海士も未熟で、急な方向転換をおこなったそうですから、これではひっくり返るのも無理はないと、すぐに理解できます。
 つまり転覆したのは、100パーセント船の運行会社の責任です。過積載が常態となっていたのは、もちろん一回あたりの運行の利益率を上げようという魂胆だったからに違いありません。未熟な航海士を登用していたのも、人件費を削るためでしょう。利益を図るあまり安全をないがしろにしたという、絵に描いたような悪徳船会社です。

 そして、転覆しかかってからの船長以下のおこないがあまりに陋劣であったことも明らかになりました。
 船長はこういう事故の時、まず第一に貨客の安全を図る義務があります。貨物のほうはやむを得ないにしても、乗客を避難させることを最初におこなうべきです。当然ながら、まずやらなければならないのは、乗客を全員甲板に集めて状況を説明することです。そして整然と救命ボートに乗せて待避させ、そのあとで自分たちも避難するというのがものの順序というものでしょう。
 しかしこの船長は、乗客に船室から出ないで待機するよう指示し、その間に自分たちだけ脱出したというのですからあきれはてます。しかも、救助される時には一般乗客を装ったというに至っては、「外道」という言葉より他に思い浮かびません。まるでマンガに出てくる悪役です。
 そのあと船長は、持っていた紙幣をオンドルで乾かしていたとか、他の船員が部屋に入ってきてそれを拾おうとすると

 ──そいつは俺のだ!

 と叫んだとか、クズっぷりをさらに際立たせるようなオマケのニュースまで伝えられました。
 結局300名に近い乗客が船室に取り残されたまま転覆し、脱出できないままになりました。これはもう、業務上過失致死というよりも、未必の故意による殺人行為と言われても仕方のないできごとです。
 乗客を船室に待機させた理由はいまだはっきりとしていませんが、巷間伝えられるように、船長以下が脱出するにあたって邪魔されないように、なんてことであれば、人はここまで陋劣になれるものなのかと慨嘆を禁じ得ません。
 その後の調査で、救命ボートがそもそも劣化していて使用に耐えなかったばかりか、イタズラを懸念してか容易に本船から切り離せないように、無駄に厳重に固定されていたということが判明しました。救命ボートが使い物にならないという驚愕の事実を乗客に知られないために船室に待機させたのではないかという疑いが出てきたのです。まあ、こちらが真相だとしてもひどい話ですが。
 救命ボートなど、定期検査の際に真っ先に点検されるはずですが、どうやらこれも怠っていたようです。というかよくこれで検査を通ったものです。検査の役人に袖の下をつかませて大目に見て貰っていたというような話もまことしやかにささやかれていますが、そこまで腐敗していたとすればもはや近代国家とも思えません。むしろ韓国人特有のケンチャナヨ(気にしない=テキトー)精神の致すところではないかという気もします。
 ともかく、これでもかと言わんばかりにダメダメなところが出てくるので、いたましさよりもヒンシュクが先に立ってしまいます。こんなことでは、今回もし事故が起こらなかったとしても、次かその次くらいの航海でやらかしていたに違いないと思いたくなります。偶然の不運が重なったというような話ではなく、今まで事故らなかったのが不思議というほうが的確でしょう。

 さて転覆してからの海上警察とか韓国政府とかの対応もあんまり褒められたものではありません。日本政府が事故のあとすぐに救助の協力を申し出たそうですが、まずこれを断ったというところでアウトでしょう。
 日本の海上保安庁の海難救助部隊、いわゆる「海猿」の能力には定評があり、おそらく世界でも第一等と言って良いかと思います。日本からも近い海域であり、要請があればすぐに出動できる態勢を調えていたようです。
 それを断った理由はつまびらかではありません。当初事態をそれほど重く見ていなかったのかもしれません。韓国の海上警察のメンツを優先させたのかもしれません。日本に頼ることへの忌避感とか敗北感があって反射的に断ってしまったのかもしれません。確かに現在、日韓関係は冷えきっていると言って差し支えないと思いますが、日本には「村八分」という言葉があります。嫌われ者であっても、八分の残りの「二分」、すなわち葬式火事の時には、ふだんの行きがかりを捨てて協力することになっているのです。今回は水難ですが、まあ火事に準ずると言えるでしょう。人命救助を第一とするならば、韓国政府はむしろ日本側が何も言わないうちから協力を要請するのが最善だったのではないでしょうか。

 ──チョッパリなんぞに頭を下げられるか。

 という気分が先に立ったのだとすれば、国民の命をどう考えているのかと問いつめたくなります。ちなみにチョッパリというのは豚足のことで、足袋を履いた足の形が似ていることから日本人に対する蔑称になっています。「韓流」が好きで朝鮮語を勉強して韓国へ旅行したところ、あちこちでこの言葉を投げつけられていることに気づいて、すっかり興を冷ましてしまったという女性なども多いようです。ネットではずいぶん前からよく知られています。
 ともあれ日本の助力を断り、それにしては初動が遅れたようでもあり、転覆した船内に閉じこめられた乗客たちを救うことは結局できませんでした。
 それはまあ仕方のなかったことかもしれませんが、海上警察の活動についての報道が混乱の極みで、この点もまたウォッチャーたちの失笑を買っていました。
 わりと早い時期に、三百何十名だかを救出したという報道がありましたがまったくの誤報。セウォル号の中から救難を求めるメールが届いたという報道も誤報。ダイバーが船内に突入成功したというのも誤報(現在はさすがに突入できていますが)。船内に酸素を注入できたというのも誤報。自称ダイバーが「政府に救助活動を妨害されている」と発言したけれども真っ赤な嘘、しかもダイバーということ自体が大嘘。船の中の遺体はみんな指の骨が折れていた(壁をかきむしったか、脱出しようとしたか?)という報道も嘘。転覆直前におこなわれていたと報じられた「感動のツイート」も作り話。
 その上に、「一億ウォン払えば確実に助けてやる」みたいな詐欺バナシも横行しています。もう、本当のことなど何ひとつないかのようです。

 ──沈没したってのも、実は嘘じゃないのか?

 というジョークすらささやかれていました。
 こんなに誤報ばかりでは、報道機関として成立しないのではいかと思いたくなりますが、ひとつ言えることは、韓国の新聞というのは、わりと記事に「願望」を混ぜることが多いように見受けられるという点です。

  日本人にとって歴史は「学問」であり、
  中国人にとって歴史は「政治」であり、
  韓国人にとって歴史は「願望」である。


 とよく言われますが、どうも韓国人のメンタリティというのは、

 ──こうであればいいのに。いや、こうであるべきだ。

 と考えたこと(願望)を

 ──こうであった。

 と既成事実に脳内変換してしまう傾向があるように思われます。日本に対してつけてくる、われわれから見れば相当に理不尽な難癖や因縁の数々を見ても、客観的な事実に基づくというよりも、彼らの脳内で「既成事実化された願望」に基づいているようにしか見えない場合がちょくちょくあります。
 今回の山のような誤報は、もし弁護するとすれば、記者たちのそのメンタリティが思いきり先走ってしまった結果ではないでしょうか。たぶん、それぞれの誤報について、記者に悪意はないのだと思います。

 しかし、日を追うにつれ、このけしからぬ船会社による重大人為事故(としか言えません)が、何やら大変な「災害」であるかのような空気ができてきたのには、疑問を感じずにいられません。というか、意図的にか無意識にか、日本の東日本大震災に相当する国民的大惨事であるという感覚ができあがってきたかのようです。
 遺族(当初は「行方不明者家族」でしたが)が現場近くの体育館に寝泊まりしているというのもなんだか変な話ですし、そこに全国から救援物資が届いたというのも、情が厚いことはわかるにせよ的はずれです。震災の被災者とは違って、遺族たちが生活に窮しているというわけではありませんし、交通手段が途絶えているわけでもありません。いったい誰のための救援物資なのかということは、当初から指摘されていました。
 海上警察や政府の役人に遺族が殴りかかったりするのは、現場の心理としてわからないではないものの、朴槿恵大統領に対し、責任をとって退陣しろと迫るに及んでは、何がなんだかわかりません。悪質な船会社の存在を許した責任、とか、せっかくの日本の助力申し出を断って事態を悪化させた責任、というほどのはっきりした筋道があるようにも見えません。なんだかわからんがとにかく政府が悪い、といった(ここでも)ケンチャナヨな怒りに過ぎないようです。
 曲がりなりにも近代国家である以上、まず事件の詳細を明らかにし、船会社の責任者に相応の罰を加えるというのが先決でしょう。その罰が軽すぎるというので大統領を批難する、という順序であれば理解できるのですが、あの国は往々にして順序をすっ飛ばしてしまう傾向があるようです。
 日本と比較するのであれば、日航機墜落事故とかホテルニュージャパン火災とか、そういう事件を対象にすべきであって、天災であり広域災害である東日本大震災と同列に論じるのはどう考えても筋が通りません。まず船会社に責任をとらせるところからすべてがはじまるわけで、政府批判はそのあとの段階であるはずです。
 ともあれこの事故とそれにまつわる騒動は、良くも悪くも、韓国人という人々の特性を露呈しているように思われました。なんにしても、遅ればせながら亡くなられたかたがたのご冥福をお祈り申し上げます。

(2014.5.10.)

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