32.走れ、新快速


 以前、関西は「私鉄王国」と言われていた。
 スピードが速い。車輌がいい。運賃も安い。どれひとつとっても国鉄(当時)の及ぶところではなく、国鉄は私鉄と競争するのを諦めて、もっぱら長距離輸送に専念していた。
 ノロノロ運転で、車輌も通勤型一本槍な首都圏の私鉄に乗らざるを得ない当方としては、うらやましくてならなかった。
 スピードの点で気を吐いていたのは、首都圏では京浜急行だけだった。しかし京急の快速特急(当時。現在は「快特」が正式種別名称となった)といえども、関西に持って行けば普通程度の走りに過ぎないと言われ、悔しい想いをしたものである。
 だが、ここ数年、様子が変わってきた。
 すでに阪急について触れた項目などで書いたが、JR西日本の猛烈な攻勢により、関西の私鉄は完全に受け身に立たされ、それどころかすっかり逆転してしまい、私鉄はもはや青息吐息の状態だ。阪急など、この前から特急の停車駅を大幅に増やした。つまりスピード勝負は諦め、途中駅の乗客をこまめに拾う戦略に切り換えてしまったのである。

 JR西日本の復活の象徴が「新快速」である。最初は新幹線の岡山延長により阪神地域で大量に剰った「鷲羽」などの急行用車輌を利用して走るようになったものだったのだが、やがて117系などの専用車輌が登場した。さらにグレードアップが重ねられ、今は転換クロスシートなどかつての急行を上まわる車内設備、最高時速130キロというスピード、それなのに特別な料金を要しないという親しみやすさなどで、西日本・東海の両JRの主力兵器と言うべき存在になっている。
 阪急などが音を上げているのは、まさにこの新快速の威力によるものだ。現在の新快速の日中の標準速度だと、京都──大阪27分、大阪──三宮20分、三宮──明石15分、明石──姫路22分となっているが、阪急京都線特急は河原町(京都)──梅田で43分を要し、同じく神戸線特急の梅田──三宮は27分。山陽電鉄直通特急で三宮──明石は27分、同じく明石──姫路は32分というわけで、スピードではもう勝負にもなんにもならない。
 名古屋圏でも、名鉄が苦戦を強いられている。かつては名鉄のひとり勝ちみたいなものだったのだが、名古屋──岐阜を18分で駆け抜けるJR東海の新快速(快速も)に対し、名鉄特急は線形の悪さからどうしても24分を切ることができない。
 新快速こそ、競合私鉄の恐怖の的であり、JRの切り札なのである。

 ひるがえって、わが住まいする首都圏を見ると、最近はかえって私鉄が元気がいい、と言われている。
 特に京王東急がかなり意欲的だ。
 京王は平成9年に運賃を値下げし、新宿ー八王子・高尾間で競合するJR中央線の客を少なからず奪った上、平成13年の春には「準特急」という前代未聞の種別を設置して、全体としてかなりのスピードアップを図り、中央線特別快速などに対して相当な優位に立った。
 東急も東横線に平成13年春から初の特急を走らせ始めた。東横線の急行は「隔駅停車」などと呼ばれて評判が悪かったが、この特急は急行より6駅停車駅を減らして、渋谷ー横浜間で4分スピードアップ(ということは、実際の走行速度は上がっていないようだが)した。その他にも、地下鉄の新規乗り入れなどによる路線の再編成にも意欲的に取り組んでいる。目黒線大井町線にも遠からず急行が走る予定になっている。
 地下鉄の延伸工事も盛んにおこなわれているし、常磐新線りんかい線なども急ピッチで建設中だ。
 東京では、クルマによる移動がほとんど無理になりつつあり、鉄道網の整備が更めて求められてきていると言える。

 そうは言っても、利用者の立場からすると、まだまだ甘い、という気がする。
 ひとつにはJR東日本の鷹揚すぎる態度がある。
 私鉄との競合区間が少ないという事情はあるが、競合しうるところでもあんまり意識していない。むしろ、これ以上便利にするとまた混雑がひどくなるから、改善はしないという姿勢が強く見られる。私鉄が輸送力を肩代わりしてくれるのならもっけの幸い、という考えすら感じられる。JR西日本とは根本的姿勢が違うのである。
 もしJR東日本が、首都圏各線にJR西日本並みの新快速を投入し始めたら、私鉄は現在のような生ぬるい小手先の改良ではとても追いつかなくなること必定である。鉄道輸送体系は抜本から揺り動かされることになるだろう。
 かつて東京圏では、国鉄が「五方面作戦」なる輸送力増強プランを実施した。東海道線中央線東北線常磐線総武線の5方面に思い切ったてこ入れをおこない、複線だったところは複々線に、複々線だったところは三複線に増やし、通勤電車と中長距離列車の分離や快速電車の投入など、さまざまな改良をしたのである。実はこの施策が国鉄の赤字を急速に増やしてしまったのだが、少なくとも当時は、現在のような退嬰的な考え方だけはなかったようである。
 利用者としては、今一度五方面作戦を展開して貰いたい。JR東日本が積極的に攻勢に出れば、受けて立つ私鉄側もラディカルな改革を余儀なくされるはずだ。首都圏の鉄道はより便利に、より快適になることだろう。
 そんな夢を込めて、首都圏に新快速が走ったらどうなるか、シミュレーションしてみたい。もちろん夢想であるから、各社の経営状況などは一切考慮しないことにする。こうなったらいいな、という私個人の願望である。

★東海道線★

 現状は、横浜までの各駅停車として京浜東北線の電車が走り、さらに横須賀線の電車が大船までの区間快速のような形で機能している。東海道本線の普通列車は、大船まではいわば快速と言える。さらにその上に本物の快速「アクティー」が1時間おきに走っている。
 横浜までは京浜急行本線が全面的に競合しており、また山手線西部からの競合路線として東急東横線もある。JRでは平成13年末から、日中1時間に3往復だけとはいえ、新宿大宮方面から横浜方面へ乗り入れる湘南新宿ラインの運転がはじまり、渋谷──横浜間で東横線と真っ向勝負となった。
 藤沢小田原では小田急との競合もある。湘南新宿ラインは新宿──藤沢間で小田急に勝負をかけたものとも見えるが、藤沢まで行くのは1時間一本に過ぎない。
 列車のランクから言えば、「アクティー」を新快速的列車としててこ入れする方法もある。東海道本線の普通列車は、京阪神地区の東海道・山陽本線の快速電車に相当すると考えてよいので、その上の「アクティー」を新快速と見なしてもよさそうだ。
 だとすれば、停車駅が多すぎ、スピードものろすぎ、運転頻度が少なすぎる。1時間に一本ではとても西日本の新快速並みの利用は見込めない。西日本の新快速の15分おきとまでは言わなくとも、せめて30分に一本程度の頻度は必要だし、小田原まで60分を切るくらいのスピードは欲しい。ちなみに現在の「踊り子」が小田原まで61分である。「踊り子」は車輌性能的には新快速クラスだ。
 停車駅については、なかなか難しいところがある。新橋を通過するとしても、品川・川崎・横浜・大船までは停車させなければおさまるまい。藤沢・茅ヶ崎・平塚あたりが問題だ。昔の急行「伊豆」などは平塚のみ停車していたが、藤沢は小田急及び江ノ電、茅ヶ崎は相模線という連絡路線があり、客の便宜を考えるとどれも通過するのははばかられる。この3駅は現在はそれぞれ市の代表駅だが、間もなく湘南市として合併することが決まっているから、そうすれば多少は融通が利くようになるかもしれない。茅ヶ崎停車の電車と、藤沢・平塚停車の電車を分ける、いわゆる千鳥停車にすることも考えられる。また茅ヶ崎──平塚間に腹付線増をおこない、相模線を平塚まで乗り入れさせ、茅ヶ崎は通過ということにしてもよい。さらに国府津は、御殿場線と確実に接続するならよいが、そうでないのなら通過してもよいと思う。
 湘南新宿ラインはもっと拡充すべきで、こちらにも新快速を乗り入れさせたい。東京発の新快速と、新宿経由の新快速が、それぞれ30分おきに交互に走るようになるとよいと思う。新宿からの列車は藤沢に停めるようにすれば、小田急は安穏としていられなくなる。現在、新宿──藤沢は小田急の急行で1時間以上かかっているが、新快速なら40分程度で結ぶはずだ。そうなれば誰も小田急など使わなくなるだろう。小田原でもピンチである。小田急も今のように遅い急行をタラタラと走らせているわけにはゆかず、大改良が必要になる。
 行先は現状の熱海まででもよいが、伊東行きと沼津行きを交互に走らせてもよいかもしれない。

★中央線★

 中央線には「特別快速」という種別の電車が走っており、ランクとしては新快速に匹敵するだろうが、これは車輌も一般通勤型、速度もさほど速くなく、単に駅をたくさん通過するというだけのもので、西日本や東海の新快速には遠く及ばない。
 中央線は三鷹まで(間もなく国分寺まで)複々線となっており、緩行線に各駅停車、急行線に快速電車と特急・急行が走るようになっている。それはいいのだが、肝心の快速が、中野から先は各駅停車という情けないことになっている。
 これは歴史的事情によるもので、複々線化工事をおこなう際、沿線住民から、
「線路を拡げるのには協力するので、その代わり快速電車を停めろ」
と条件が出されたのである。結局、休日だけ高円寺・阿佐ヶ谷・西荻窪を通過するが、あとは各駅停車ということになった。ただしその後、夕方ラッシュ時には上記の駅を通過する「通勤快速」が走るようになったが。
 そういう事情があるためやむを得ないとはいえ、せっかくの急行線に、各駅停車になった快速電車を走らせるのはいかにも無駄な話である。このために特別快速や特急は充分なスピードを出すことができない。中野から快速は緩行線に転線すべきだろう。中野──三鷹間には営団地下鉄東西線の電車も乗り入れてきているので、緩行線もあまり余裕があるとは言えないが、信号方式を改良すればもう少し密度は上げられる。列車種別が一種類だけだから、並行ダイヤにもしやすい。
 急行線があけば、特別快速も特急もずっとスピードアップできる。JR西日本並みに時速130キロ運転することだって可能だ。中央線は人も知る長大直線区間を持っているのだから、カーブで速度を落とすという心配がない。
 西日本の新快速に匹敵する、表定時速90キロくらいで走れば、新宿──八王子は約25分、新宿──高尾は約29分で走れ、京王を大きく上廻ることになる。ただ途中から複線になるのでそれほどのスピードは出せないとしても、表定時速80キロでも八王子まで28分、高尾まで33分なのだから充分に速い。
 今のところ特別快速の立川以遠は各駅停車だが、各駅停車となるいわば「区間特別快速」と、立川以遠も快速運転をする電車に分ければよいのではないか。
 車輌はもっと良いものを使って貰いたいところだ。高尾などは行楽地でもあるのに、通勤車輌で行くのはどうにも気が乗らないものがある。都心部の混雑を考えるとやむを得ないというのなら、最近近鉄などが導入し始めたデュアルシートがよい。混雑時はロングシート、閑散時や行楽時にはクロスシートに転換できる座席である。
 これを用いれば、大月ないしは甲府まで乗ってもそれほど疲れない。特急「かいじ」など廃止して、この「新」特別快速を頻繁に走らせてはどうだろう。高尾以遠は、上記の区間特別快速を各停とし、そうでないものはやはり快速運転する。停車駅は、相模湖・上野原・四方津・大月・勝沼ぶどう郷・塩山・山梨市・石和温泉でよいだろう。
 なお、特別快速は青梅線に乗り入れ、青梅までも行っている。これは良いと思うが、青梅線内も快速運転すべきだ。停車駅は、現在の「ホリデー快速おくたま号」と同じ、西立川・拝島・福生、それに河辺を加えてもよい。
 さらに、拝島から八高線に乗り入れて、高麗川、そして川越までつなげば、埼京線と接して環状快速運転ができる。
 ここまでやれば、京王は大打撃を被り、対抗策を考えなければならない。高尾へ行く特急をデラックス車輌にするとか、何か手を打つことになるだろう。さらに青梅線方面では、西武新宿線にもう少し頑張って貰いたいところだ。現状でも拝島までの輸送では青梅特快に完敗しているが、西武は一向に気にしていないように見える。これでは困るではないか。
 もっと大事なことは、大月ないし甲府まで新快速並みの特別快速が走るようになれば、今まで電車では遅いからとクルマで中央高速を走っていた人たちが、相当シフトすると思われることである。これには前例がある。他ならぬJR西日本で、新快速の運転を姫路まで15分ごとにしたところ、クルマから移ってきた乗客がずいぶん居たのだ。中央高速の慢性的な渋滞を考えると、高速快適な特別快速が走れば鉄道利用に切り換えるという人が少なからず居ることが予想される。

★東北・高崎線★

 実は、高崎線に新快速を走らせるという案は過去にあった。長野新幹線が開通する時、在来線を走っていたL特急「あさま」がなくなるため、そのスジが空くので、それを利用して高崎までの新快速を走らせようとしたのだ。
 しかし、結局その案は立ち消えとなった。なぜなら、
 ──そんなに高速の電車を走らせてしまっては、新幹線の利用者が減るのではないか。
 という反対意見が強かったからだそうで、実になんと言うか、料簡の狭い話である。
 上越・長野新幹線と在来高崎線が、同じJR東日本の管轄であったからこんな意見が通ってしまう。関西地区の東海道新幹線と東海道本線が別々の会社で良かったというべきだろう。しかし、同じ西日本の管轄である姫路方面に新快速の頻繁運転を伸ばす際、おそらく同じような危惧がなされたに違いない。それを思い切ってやってみたら大当たりだったのだ。東日本も少しは冒険してみてもよいのではないか。
 現在、高崎線には「アーバン」東北本線には「ラビット」と名付けられた快速が走っている。いずれも1時間ごと、さらに夕方ラッシュ時の下りにはどちらも通勤快速が走る。
 「アーバン」も「ラビット」もそんなには速くない。また、車輌は普通列車と共用で、大半がロングシートとなっている。これでは特に選んで乗りたくもならない。
 新快速を走らせるとしたら、東海道本線の「アクティー」とは違って、これらの快速をグレードアップするのではなく、まったく別の発想で考えるべきかもしれない。
 まず考えられるのは、湘南新宿ラインのさらなる活用である。以前は赤羽駅前後で単線になっていたので、そんなに本数を増やすわけにもゆかなかったが、今は全面的に複線化されたのだから頻繁運転ができるはずだ。問題はもともとが貨物線だったという事情により、浦和さいたま新都心にプラットフォームがなく、列車が停まれないことだが、新快速用であればそれでもよいように思える。
 都心を貫通する新快速が頻繁に走るようになれば、人の流れもかなり変化するだろう。池袋新宿渋谷といったターミナル駅の混雑も多少は解消されるのではあるまいか。
 現在の「アーバン」の停車駅は、赤羽・浦和(湘南新宿ラインからのものを除く)・大宮・上尾・桶川・北本(一部通過)・鴻巣・熊谷以遠各駅。「ラビット」は大宮までは「アーバン」と同じでその先は蓮田・久喜・古河・小山以遠各駅である。
 新快速を走らせるとしたら、こちらはすべて新宿方面からにして、「アーバン」「ラビット」は全部上野発に整理するとよいかもしれない。大宮以遠の停車駅としては、高崎線は「アーバン」の上位列車として熊谷までノンストップ、あとは一駅おきに深谷・本庄・新町・高崎と停車して、以遠各駅停車となり前橋桐生まで走らせるとよい。これが走ると「新特急あかぎ」は存在意義を失いそうだが、新特急というのはもともと車輌も走りっぷりもせいぜい新快速と同格という感じだから、せこせこ特急料金など取ろうとしないで新快速にしてしまえばよいのだ。「新特急水上」「新特急草津」は、どうしても特急にしておきたいなら、高崎までの停車駅をもう少し特急らしく整理するべきである。
 東北本線は「ラビット」の上位列車になるから、大宮以遠の停車駅は古河・小山・石橋・宇都宮とし、日光まで乗り入れさせるとよいかもしれない。日光線内は鹿沼今市のみの停車とし、新宿──日光を110分程度で結べば、東武が独占している日光への観光客をごっそり奪えるはずだ。何しろ東武はターミナル駅が浅草北千住と、足場が悪い。新宿からの新快速が走れば、東京西部からの客は完全に押さえられるだろう。ただし、車輌をちゃんと新快速らしいグレードの高いものにする必要があるが。JRがこうした場合、東武の対抗策としては、特急の地下鉄乗り入れによる都心直通しかあり得ないが、営団がうんと言うかどうか。日比谷線は規格的に無理だろうから、間もなく押上から直通することになる半蔵門線を使うしかないだろうが……。

★常磐線★

 常磐線は現在でも、首都圏には珍しくかなりの高速運転をおこなっている。中央線の快速あたりに馴れた人が常磐線の快速に乗ると、
「なんだかこわいくらい速い」
という感想を漏らすことが多いのである。
 だからこの方面はそれほど思い切った改良は必要ないとも言えるが、それで満足してしまうのもつまらないから、考えてみることにする。
 現在の快速は、上野から北千住まで各駅停車、そこからは松戸・柏・我孫子・天王台に停車して取手まで行っている。
 ちょっと評判が悪いのは、常磐線の各駅停車というのは営団地下鉄千代田線に直通し、綾瀬で合流しているのだが、綾瀬に快速が停車しない。千代田線は北千住も通っているからここで乗り換えればよいのだが、ここの乗り換えが非常に不便である。三河島・南千住綾瀬・亀有・金町の各駅との行き来が実にしづらくなっている。
 そこで、快速を綾瀬と、それから武蔵野線との接続駅である新松戸に追加停車させ、その代わりに新快速を導入するということも考えられる。
 停車駅は、現在の快速から、三河島・南千住・天王台を省き、土浦まで延長運転する。できれば取手以遠も快速運転し、佐貫・牛久・ひたち野うしくのみの停車とする。ただ、常磐線のこの区間には、交流と直流が切り替わる箇所があるので、延長運転するためには交直両用車輌を投入しなければならない。
 なお常磐線の中長距離普通列車はほとんどロングシートになったが、新快速ともども、せめてデュアルシートにすべきである。

★総武線★

 現在、総武線の快速は横須賀線と相互直通し、千葉側でも房総各線に乗り入れている。内房線君津外房線大原まで。そして成田空港までのものは「エアポート成田」と名が付けられている。
 名前は付いているが、「エアポート成田」は特に変わった車輌を使っているわけでもない。最近はほとんどロングシートにして、かえってグレードを下げている。成田からは高い特急料金を払って「成田エクスプレス」に乗るのが当然、と言わんばかりである。
 同じ空港アクセス列車でも、JR西日本は関空アクセスとして特急「はるか」の他にちゃんと最新鋭223系クロスシート車輌を使った「関空快速」を走らせているし、JR北海道の快速「エアポート」も、半車タイプの車室を持つ快適な列車で、特急に乗れよがしの態度ではない。日本最大の国際空港であるはずの成田空港へのアクセス列車だけが見劣りしているのである。どうも、
「『エアポート成田』を快適にすると『成田エクスプレス』の利用者が減るかも……」
というようなさもしい料簡があるのではないかと邪推したくなる。新幹線の乗客が減るからと、高崎線に新快速を走らせるプランを闇に葬ったJR東日本だけに、そんな邪推をされても仕方がないではないか。
 成田空港までは、新快速クラスの列車を走らせるべきだ。ついでに君津や大原までも、今のような低性能な快速をたらたらと走らせるのではなく、223系に匹敵するほどのものを走らせて貰いたい。
 千葉を越えて房総方面まで快速運転する「新快速」と、千葉までの「快速」に分けるというのもいいかもしれない。車輌のランクも変えるのである。この場合快速は、現在の停車駅の他、交通の要衝として重要になってきた本八幡西船橋、それに幕張に追加停車するとよく(もちろんプラットフォームを新造する必要があるが)、新快速は千葉までは錦糸町・船橋のみの停車にすればよいだろう。
 この新快速は、上に書いた中央線の「特別快速」(改良案)とスルー運転することにしても面白い。快速は横須賀線と、新快速は中央線と直通するのだ。中央線の東京駅の発着に余裕ができるし、都心部貫通運転をすれば人の流れが変化するはずである。ちなみに、東京への連絡線ができる前の総武線快速は、現在の各駅停車と同じく中央線の三鷹まで乗り入れていた。ただし中央線内は各停となっていたが。
 スルー運転をする場合は、御茶ノ水から、秋葉原両国に停車することになろうか。
 総武線がこのくらい思い切った策を講じるためには、京成にもっと頑張って貰わなければならない。そのうち北総開発鉄道が成田まで開通すると、スカイライナーはそちらを経由することになると言われている。京成の本線より高規格で、直線部分が多く、実際のキロ程も短くなるから、相当なスピードアップが見込まれる。「成田エクスプレス」を脅かすことになるが、「エアポート成田」の方も安閑としてはいられない。
 空港アクセスを新線に任せ、本線側では今まで閑却していた千葉方面に力を入れるべきである。京成津田沼から分岐する京成千葉線は、現在のところ各停電車がほそぼそと走っているにすぎないのだが、本来この線は総武線とほぼ全面的に並行し、熾烈な競争になって不思議はないはずなのだ。スカイライナーが別線経由になって余裕のできた本線に、京急2100系と同クラスのクロスシート(もしくはデュアルシート)の特急を頻繁に高速で千葉まで走らせれば、総武線からごっそり客を奪える。あわてたJRが新快速を導入して対抗する、と、そういう順序でなければなるまい。

★埼京線・京葉線・横浜線など★

 首都圏では、以上の「五方面作戦」路線以外にも定期的に快速の走る路線がある。山手線恵比寿から渋谷新宿池袋を経てもとの赤羽線を通り、赤羽から東北新幹線に隣接して大宮まで設置された埼京線東京駅の地下から東京湾沿いを走って、ディズニーランドや幕張メッセなどの側を通って千葉県の蘇我まで行く京葉線。そして横浜と中央本線八王子を結ぶ環状路線である横浜線である。
 埼京線・京葉線・横浜線の快速は、いずれも各停と車輌を混用し、スピードもまあそこそこという程度である。上位列車を走らせるほどのことはないが、いろいろ改善の余地はある。
 埼京線は、新宿・池袋──川越東武東上線・西武新宿線と競合状態にある。ただ川越という街自体がそんなに規模の大きな都市ではないため、競合といってもいささかのんびりしており、どの会社も生ぬるい。わずかにやや地の利が少ない西武だけは、デラックス特急「小江戸」を走らせたりしているが、東武の鈍感さは歯がゆいほどであり、埼京線も似たようなものだ。今、埼京線の快速に、西日本の221系、223系などに匹敵する車輌が投入され、高速運転するようになったらどうだろう。東武も西武もひとたまりもないのではあるまいか。
 京葉線の快速はスピード的にはまあまあだが、できるなら特急「さざなみ」「わかしお」同様、最高時速120キロとか130キロとかの運転をしたいところ。ある意味観光路線でもあるわけだから、車輌ももっと快適なものを導入したい。
 横浜線の快速ももっとスピードアップできるはずだ。それと、根岸線に乗り入れてからも快速運転して貰いたいものである。
 なお、湘南新宿ラインにも快速が走っているが、これについては東海道線や高崎線のところで考えたので省く。
 京浜東北線電車は、山手線と併走する部分、日中のみ快速運転をおこなっている。駅を通過するというだけで、なんとも申し訳なさそうにノロノロと走っているが、プラットフォームに安全柵をつけるなどして、もう少しスピードアップする必要がある。また、日中だけでなく、終日快速運転でよいと思う。路線の性格上、ここばかりはクロスシートとかいうわけにはゆくまいが、もう少し「快速」らしい走りっぷりを見せて貰いたいものだ。

★その他の路線★

 他にも、快速運転をした方がよいように思える路線はいくつかある。「新快速」の話ではないが、少し触れておく。

 南武線には昔、登戸以南だけだが快速が走っていたことがある。停車駅は武蔵小杉武蔵溝ノ口のみ。ただ途中駅に追い越し設備がなく、輸送量が増えてくると速度の違う電車が走るのは邪魔になったようで、いつしか廃止されてしまった。
 南武線の電車に乗っていると、なんだか細かい駅にしょっちゅう停車していてどうもイライラする。追い越し設備を作って快速を走らせたい。登戸以北は、稲城長沼・府中本町・分倍河原・谷保あたりに停車すればよかろう。

 相模線はずっと非電化のローカル線だったが、沿線人口が増えて近年電化された。しかしあんまりサクサク走るようになったという気もしない。ここも1時間一本程度の快速を走らせてみたらどうだろう。停車駅は、寒川・倉見・海老名・原当麻・橋本、そこから八王子まで直通すればよい。

 武蔵野線には時折休日などに臨時の快速列車が走ることがある。また不定期で「むさしの号」という、八王子──大宮間の快速が一日三往復くらい走る。これらは通勤車輌ではなく、旧式の急行型車輌が用いられることが多い。
 武蔵野線はもともと貨物線として建設されたゆえ、いろんな路線への連絡線が用意されており、かなりフレキシブルな運転形態をとることができる。中央線や東北線に乗り入れる上記「むさしの号」もそうだし、東海道線・常磐線・京葉線のいずれにもスムーズに乗り入れられるようになっている。今のところ定期列車では、京葉線に乗り入れて京葉線内のみ快速運転(いわゆる武蔵野快速)をしているが、もっといろんなパターンの列車を通してよい。都心を通らずに各方面を短絡できる環状線の強みが、充分に活かされているとは言いがたいのである。
 武蔵野快速は武蔵野線内でも快速運転をするべきだろう。停車駅は西国分寺・新秋津・東所沢・北朝霞・武蔵浦和・南浦和・南越谷・三郷・新松戸・西船橋というところか。そしてその他に、各方面に直通する列車が定期的に運行するという形になるとよい。

 「快速」は、ただ駅をいくつか通過すればよいというものではない。その字面からしても、「快適に、速く」客を運ばなければ意味がない。首都圏の快速は、どうも、停車駅をちょっと減らすだけの、片手間のサービスという感じがしてならないのである。
 JR西日本は、そもそもの「哲学」が違っている。「快速」を、都市輸送の主力兵器と位置付け、ダイヤ編成の中心に据えているのだ。古くから新快速の走っていた東海道・山陽線だけではない。関西本線「大和路快速」宝塚線「丹波路快速」阪和線「関空快速」「紀州路快速」奈良線「みやこ路快速」片町線山陰本線にも等間隔ダイヤによる快速を頻繁に走らせている。どの路線も、まず快速ありき、それから各停電車をはめこんでゆくといった感じで、特急ですら優位に立っているとは言い切れない。意識的に「快速電車網」を形成しているわけだ。JR東日本にこういう確乎とした哲学は感じられない。
 いろいろ夢想を語ったり提案をしたりしても、JR東日本は山のように「できない理由」を並べ立てて却下するに違いないが、それこそ、国鉄時代からそのまま引き継いだ悪しき官僚主義というものである。現状に安住せず、次々とアイディアを出して私鉄に挑戦し続けて貰いたいし、私鉄も正面から受けて立って貰いたい。東京の住民は我慢強いが、いつまでも混雑したノロノロ電車で辛抱しているとは限らないのである。

(2002.2.2.)


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