13.周遊きっぷのこと

 
 長らく愛用していた「ワイド周遊券」「ミニ周遊券」が、この3月で廃止され、代わって「周遊きっぷ」なるものが売り出されることになった。
 「ワイド周遊券」などは鉄道旅行好きにはおなじみの切符だったのだが、ご存じない方のために説明しておこう。
 周遊券というのはそもそも、旅行に出かけて帰ってくるまでの行程の切符をひとくくりにしたもので、「一般周遊券」の場合、いくつかの条件をクリアすると、運賃その他が割引になる。その条件とは、

 1.JRの列車、連絡船、一部の高速バスを、201キロ以上利用する。
 2.JRが定めている「周遊指定地」を2箇所(「特定周遊指定地」なら1箇所)以上経由する。
 3.出発地に戻る。
 4.行程があらかじめわかっている。

 以上である。これでJRの鉄道路線は2割引、その他の大多数の私鉄やバスも1割引で切符が買えるのである。この他に「グリーン周遊券」というのもあり、これは夫婦で使うことを条件に、さらに特急券やグリーン券や寝台券まで割引になる。
 これがいわばオーダーメイドの周遊券なのだが、本人の自由に行程を設定することができる反面、最初から最後まで旅行の道筋が固定されてしまうので、旅先でちょっと予定を変更するということが難しい。
 そこで、私のように風来坊の気のある旅行者は、レディメイドの周遊券である「ワイド周遊券」「ミニ周遊券」を用いる。オーダーメイドよりレディメイドの方が自由が利くというのは奇妙だが、これらは、「自由周遊区間」というものが設定されており、その中では何回乗り降りしても、同じ路線に何回乗っても構わない。出発地から自由周遊区間まではいくつか(たいてい2つ以上)の経路が設定されていて、選べるようになっている。
 例えば、東京から「北陸ワイド周遊券」を買って旅立つとすると、この周遊券の自由周遊区間は北陸本線敦賀(つるが)−糸魚川(いといがわ)間とその区間から分岐する越美北線・七尾線・城端線・氷見線・富山港線の各支線、それに大糸線糸魚川平岩間、金沢付近のJRバスである。この区間へ行くためには、東海道新幹線米原まで行って北陸本線に乗ってもよいし、米原ではなく名古屋までにして、そこから高山本線に乗ってもよい。中央本線から大糸線経由で入ってもよいし、長野廻り、長岡(正確には宮内)廻りで入ることもできる。帰り道にも同じだけの選択肢があるから、かなり自由に旅行することができる。旅先で思い立って、がらっと違う場所へ行ってしまうということはできないが、同じ方面であれば好き勝手に動けるわけだ。
 ところが、これにもいろいろ問題があった。例えば、

 急行の自由席には急行券なしで乗れる。

 という規定があったのだが、急行自体がほとんど姿を消した現在、この規定は事実上有名無実である。そのためワイド周遊券の自由周遊区間に限り、特急の自由席にも乗れるということになったが、ミニ周遊券にはその特例は認められず、目的地によってはかえって損をするような事態も発生した。
 飛行機との共存を図った「立体ワイド周遊券」「ニューワイド周遊券」などの変種も作られたが、なんと言っても急行券規定がネックとなって、最近は利用者も漸減していたようである。
 そこで、この春、JR各社は英断をもって、この、いささか時代遅れになった「ワイド周遊券」「ミニ周遊券」を廃止したわけである。

 代わりに作られたのが、「周遊きっぷ」なるものである。
 発想としては、かつての「ニューワイド周遊券」の流れにあると言える。自由周遊区間(ゾーン)のみ設定し、その中で出入り口となる駅を決めてある。そこを通りさえすれば、往復にどういう経路を通っても構わない。ただしその往復経路は値段の中に含まれておらず、別計算になるが、5%〜20%の割引がなされる。
 ゾーン内では、新幹線、特急、急行、普通を問わず、自由席ならそのまま乗れる。
 往復経路は、いずれも201キロ以上JRを使わなければならない。しかし、どちらか片道を飛行機にすることができる。
 確かに、かつての「ワイド周遊券」「ミニ周遊券」の欠点は克服されている。
 だが、規定をよく読むと、長所さえもだいぶ削られてしまったように思われた。

 まず、往復の経路は、事前に決まっていなくてはならない。旅先の気分で、帰り道を変えるということはできなくなった。旅先で、どんな経路で帰ろうかなと考えるのは楽しいものだったのだが。
 ゾーンがいろいろ設定されたのはいいが、概して「ワイド周遊券」より狭い。北海道・九州・四国には島内全域という設定があるが、「東北」「みなみ東北」「信州」「北陸」「南近畿」「山陰」といった雄大な地域設定はなくなり、すっかり細分化されてしまった。しかも複数のゾーンを連ねて「周遊きっぷ」を買うことはできないのである。
 これはどうも、夜行列車を利用して宿代を浮かそうという貧乏旅行者を締め出そうとした意図がかいま見える。同使命の夜行列車は、夜中の2時〜3時頃に上りと下りがすれ違うのが普通である。すれ違うポイントが区間内にあれば、上りから下りへ(あるいはその逆)乗り替えることによって、夜を明かすことができる。今や座席のある夜行列車もほとんど姿を消したが、北陸の「きたぐに」、山陰の「だいせん」などは貧乏旅行者の救いの星だった。新しいゾーンでは、そういうことはほとんど不可能になる。貧乏人がうろうろするのは見苦しいというわけだろうか。
 それから、ゾーン内の有効期間が一律5日間になったが、あの広大な北海道で5日間しか使えないのはほとんど無茶である。かつての東京発北海道ワイド周遊券の有効期間は20日間だった。
 ゾーンの細分化ともあいまって、
 ――少しまとまった休みをとって、一週間くらい山陰各地を足の向くまま旅してくるか。
 などということはできなくなってしまったのである。鳥取砂丘なら鳥取砂丘、萩・津和野なら萩・津和野と、狙いを定めた旅行しかできなくなった。
 また、「ワイド周遊券」「ミニ周遊券」の良さは、そのお手軽さにもあった。旅立つ当日に駅へ行ってからどの方面へ旅をするか決めることさえできたのである。そんな旅の仕方をする人は少数派かもしれないが、少数派のニーズにも応えるだけの融通性があったことは大きい。
 新しい「周遊きっぷ」では、往復経路の運賃計算をしなくてはならないので、それほどお手軽には手に入らない。経路が複雑になっていたりすると、嫌な顔をされるおそれさえある。
 「周遊きっぷ」の利用は4月1日からなので、まだ評判のほどはわからないが、かつての「ワイド周遊券」ユーザーからは、あまり好評ではないのではないかという気がする。   

(1998.3.29.)

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