忘れ得ぬことどもII

続・ホワイト国外し

 昨日(2019年8月2日)の閣議で、韓国をいわゆる「ホワイト国」から除外することが決定されました。どこの国をホワイト国として認定するかについては、法律ではなく政令で決まりますので、国会で審議する必要はなく、閣議で決定されたらそれが最終結論です。実際の施行はあと20日ほどあとからということになるようですが、以後韓国は、戦略物資に関しての輸入に際する優遇措置が受けられなくなります。問題になっていたフッ化水素などの3品目だけでなく、120品目ほどが対象になるようです。
 優遇をやめるだけで、禁輸とかにするわけではありません。正規の手続き、すなわち大半の国がやっているとおりの手続きを踏めば輸入は受けられます。少し手間がかかるようになるだけです。
 イメージとしては、空港のパスポートコントロールです。やたらと行列ができているのでうんざりしたところ、日本のパスポートを持っているとそこをあっさり通過できたという経験をしたことのある人は少なくないでしょう。日本のパスポートはたいていの国で信用絶大なので、そんなに細かくチェックしなくともすぐにスタンプを捺してくれるわけです。ホワイト国扱いというのは、輸出入という場でそういうパスポートを持っていると考えれば良いのでしょう。チェックが非常に簡単になり、従って短時間で済むというわけです。
 もちろん、日本のパスポートが常にそんな信用を持っていたのではありません。戦前はもちろんのこと、戦後もしばらくはなかなか信用されず、長い列に並ばなければならなかったのです。連合赤軍なんかが暴れていた時期はどうだったろうかと思います。「レンゴーセキグン」という言葉は世界中に弘まり、何人もの国際アクションもの作家がネタにしたほどでした。
 長い長い信用の積み重ねの末に、日本のパスポートは世界最強と言われるまでになったのでした。信用を得るというのはそれほどに大変なことなのです。
 ホワイト国扱いというのも、長いこと貿易を続けてきて、この国相手であればまず間違いは無いと見極められた結果として与えられる特典であるわけです。
 韓国には2004年からこの特典が与えられていました。廬武鉉大統領の頃ですね。アジアでは唯一のホワイト国でした。

 韓国という国はそもそも反日を国是としているようなところで、とりわけ大統領の任期が残りわずかになってレイムダック化すると、反日的な言動をとることで国民からの支持率を上げようとする生態のある困った国です。そしてまた国民のほうも、大統領が反日的な言動をとれば実際に支持率が上がるという困った生態を持っています。
 軍人が大統領だった全斗奐廬泰愚の頃はまだ良かったのですが、文民大統領になると、金泳三も、金大中も、廬武鉉も、李明博も、もれなく末期になると「反日ブースト」を使用しました。どの人も、就任直後は日本に対し、過去のことはもう言わないだの、未来志向だのと口当たりの良いことを言うのですが、政権末期になるとそんな約束のことは忘れてしまうのでした。いや、そもそも約束したつもりも無いのかもしれません。その場だけ日本の機嫌をとって利益を引き出せればそれで良いと思っていたのでしょう。
 これが朴槿恵文在寅になると、その「反日ブースト」を最初からかけまくりました。特に文在寅は最初から北朝鮮のために働くことを隠しもせず、日本からの信用などというものを歯牙にもかけないという態度をとり続けています。
 これまでのかの国の反日的な態度に、むっとしている日本人も多かったはずですが、

 ──いやいや、あの国には昔ひどいことをしたわけだし、いまも北朝鮮や中国に対する防波堤になってくれているんだ。そのことに免じて、少しくらいヤンチャでも、大目に見てやろうじゃないか。われわれが大人の態度をとれば済むことだ。

 という風になだめにかかる手合いが必ず居ました。マスコミや野党ばかりではありません。自民党の中にもそういう意見の連中がつねに一定数居て、「日韓議連」などを作っていたのでした。
 そういう見かたは、ある意味相手を子供扱いしているようなもので、かえって失礼ではないかと思わないでもありません。しかしとにかく、「昔ひどいことをした」というのはつい最近まで確かな事実として認識されていましたし、北朝鮮や中国などに対する防波堤の役割を果たしていたことも間違いではありません。しかもこれまでは、在韓米軍を置いているUSAからも、「あの国のことは、何を言ってきても大目に見てやれ。とにかく極東で争いを起こして貰っては困る」と釘を刺されていた節があります。それに日本の政治家や官僚はまだかの国に対する見かたが甘く、

 ──充分に優遇してやれば、きっと向こうも感謝して、日本に対する反感も薄れるだろう。

 などと激甘な皮算用をしていたと思われます。
 2004年のホワイト国への登録は、まさにそういう流れの中でおこなわれました。このときの日本の首相であった小泉純一郎氏の見る眼の無さを批判する向きがありますが、その時点では上に書いたような韓国観が一般的だったのですから、小泉氏だけの責任というわけでもないでしょう。
 韓国が、日本の優遇に感謝して反感を薄れさせるような、殊勝な情操の持ち主などではなかったことが明確になったのは、ここ数年の話なのです。いや、多くのコリア・ウォッチャーにとってはそれはとっくに常識だったのですが、政治家を含む一般の人々にまで知られることは無かったようです。
 確かに普通の国であれば、特別待遇を受ければ喜び感謝し、相手に対する好意を高めるでしょう。しかし韓国という国は、その意味での普通の国ではありません。なぜなら、最初から日本を蔑視し、悪意のある眼で見ているからです。そういう眼で見れば、特別待遇をするのはなんらかの弱みがあるからということになります。弱みとは何かと言えば、もちろんそれは36年間(正味では34年ちょっとですが、かの国では「日帝36年」というフレーズが術語化しています)にわたる「世界史上最悪の収奪と虐殺を伴う植民地支配」をおこなったうしろめたさであり、いまなお「真の謝罪」をしていない道義的な劣位、ということになります。
 こんな見かたをすれば、特別待遇に対する感謝どころではありません。

 ──ふん、うしろめたいものだから媚びてきたか。こんなものではとても足りないが、まあいちおう殊勝なことではある。さしあたっては褒めてつかわす。

 という程度の受け取りかたにしかならないでしょう。
 そういう韓国が、このたびホワイト国から外されたのです。
 大変な騒ぎになったのも、当然でした。

 繰り返しますがホワイト国外しというのは単なる「優遇措置の取り止め」であり、100%日本の都合で決めて良いことです。フッ化水素などの戦略物資(しかも大変な劇薬)は、末端の使用者に至るまですべての使途が明確になっていなければならず、それをつねに明確にしていることがまたホワイト国の条件みたいなものです。にもかかわらず、40トンという相当な量が行方不明になっており、それが北朝鮮やイランに渡っていたのではないかという疑いが持たれている(日本政府の態度からすると、どうやらすでに証拠をつかんでいるのではないかと思われます)からには、ホワイト国を外されるのもあたりまえです。「ちゃんと用途を明確化した書類を提出しないと、これまでのように無審査で売るわけには参りませんよ」と通告しても、ひどくもなんともありません。
 だから、WTOやらRCEPやらで韓国代表が日本の「非道」「無法」「国際法違反」を声高に訴えても、まったく反響はありませんでした。そんなくだらないことをここで持ち出すんじゃない、と議長から注意すらされています。それはそうでしょう。WTOはともかく、RCEPというのは「東アジア地域包括的経済連携」であって、そもそも構成国の中でホワイト国になっているのは、アジアとは言えないオーストラリアニュージーランドだけです。韓国代表は、言ってみれば、
 「日本はわが国の優遇措置を外して、よりにもよってあんたたちなんかと同じ扱いにしようとしてるんですよ。こんなひどい話がありますか」
 と主張したみたいなものです。
 「おまえは一体、何を言ってるんだ」
 とツッコみたくなるのが普通でしょう。シンガポール代表からは、
 「ほほう、それならいっそ、代わりにわが国をホワイト国に加えて貰えませんかね」
 と皮肉が飛ばされたそうです。このシンガポールの発言、なぜか韓国では、「シンガポールもわが国に同調した」と報じられたらしいので、もはやお笑いです。
 USAにも特使を派遣して、日本を叱って貰おうとしたようですが、これも不発に終わりました。ポンペイオ国務長官が河野太郎外務大臣と康京和外務部長官に会って仲裁案を伝えるのではないか、などという観測も飛びましたが、それもフェイクニュースみたいなものでした。そもそも外相三者会談は閣議決定よりあとのことでしたし、この件は外務大臣の管轄ではありませんでしたし、この時点でポンペイオ氏が何か物申すはずもありません。
 要するに韓国はどこからも掩護してくれる勢力を見いだせず、なんらなすすべもなく2日の閣議決定を迎えたというわけです。
 いや、なすすべはあったはずです。40トンのフッ化水素の行方をきちんと調べて、書類として提出すれば、それで話は済んだのです。日本側はずっと、その提出さえあれば今回はホワイト国外しを見送っても良いというサインを出していましたが、韓国側はことごとくそれを無視しました。日本が強気の措置になど出るはずがない、と信じ込んでいたのでしょう。
 しかし、韓国からは、大統領、国会議長、与党政治家、野党政治家、報道機関と、ほとんどありとあらゆるところから日本批難の声は上がりましたが、書類を提出したらどうなんだ、という意見はついに出てきませんでした。
 国民も日本製品不買運動に邁進し、安倍晋三首相をキムチでひっぱたくパフォーマンスをおこない、なぜかロウソクデモまで敢行しましたが、書類を提出しようという声は上がりませんでした。大体、戦略物資を売って貰いたいのに不買運動とは、もはやわけがわかりません。
 かの国ではよくあることですが、もう整合性などどうでも良いのです。彼らにとって問題は40トンのフッ化水素の行方などではなく、

 ──道義的に劣位にある格下の日本ごときが、生意気にもわが国を「格下げ」しやがった

 というただ一点にあるのであり、それがどうしても許せないという感情が、この異常事態を生んでいると考えられます。
 許せないけれども、実際にはどうすることもできない……というねじくれた気持ちが、朝鮮民族特有の「恨(ハン)にほかなりません。そしてその「恨」が表に顕れた現象が、近頃韓国がらみでよく聞く「火病(ファッピョン)です。目下の韓国は、国全体が、「恨」に身もだえし、「火病」を発症しているに等しいのでしょう。

 ところで問題の書類ですが、たぶん提出することは不可能なのだろうと思います。つまり、本当に北朝鮮や中国やイランに横流ししていたので、それを明確化したりすれば、日本よりも何十倍も怖いUSAを怒らせることになるからです。
 しかし、おそらくUSAもとっくにそれを知っているでしょう。安倍首相とトランプ大統領は、だてに何時間も一緒にゴルフをしていたわけではありますまい。このたびの強硬姿勢も、トランプとあらかじめ示し合わせていなければ、あんなにぶれずに貫けるとは思えないのです。
 そして時期を同じくして、WTOの場で、トランプから爆弾発言がありました。中国や韓国などをいつまでも「発展途上国」扱いしておくのはおかしいではないか、という趣旨の発言です。実際には、メキシコトルコも槍玉に挙がったようですが、主要なターゲットは中韓と思われるタイミングでした。
 この発言に接して、むしろ驚いた人が多かったと思います。中国のほうは、世界第2位のGDPを誇る大国になっておきながら、状況次第で「発展途上国」の顔を使い続けていることが、わりと知られていました。人口が多いので、ひとりあたりGDPということになるとまだまだ発展途上国レベルでしかないと主張しているのです。それはそれとして、韓国がいまだに発展途上国扱いされていたとはびっくりです。GDPで言えば世界第11位だったか12位だったか、確かイタリアよりも上なのではなかったでしょうか。ことあるごとに大国づらをしてもいましたし、10年後には日本を追い越すと(数十年前から)豪語していたはずです。
 発展途上国扱いというのは、たとえば農産物の輸入のときに高率の関税をかけられるとか、いろいろ優遇措置がありました。国内産業を保護育成するためです。ぶっちゃけて言えば、プレイに参加できないみそっかすだからあれこれ大目に見てやろうという取り決めです。
 計算してみた人が居て、韓国は日本のホワイト国から外されるよりも、発展途上国扱いから外されるほうがはるかにダメージが大きいようです。
 そこまで他の国からおんぶにだっこのような優遇を受けておいて、世界最優秀民族だの世界経済制覇だのとほざいていたのかと、あきれを通り越して乾いた笑いしか出てきません。幼児が肩車をして貰って、自分はすごく背が高いのだと思い込んだみたいな話ではありませんか。
 ま、ことここに及んでは、日本からの優遇も、発展途上国としての優遇も終了し、いよいよ先進国として自分の足で立つ時が来たのだと喜んで貰いたいものです。

 ところで、今回のホワイト国外しを、韓国ではいわゆる「徴用工」裁判の報復だと認識しているようです。戦時中に「戦犯」企業で働かされていた労働者に慰謝料を払えと、韓国の最高裁が日本の企業に命じたというトンデモ判決ですね。実際には戦時労働者への補償については1965年日韓基本条約ですべてかたがついており、そのときの議事録も公開されました。日本側が個人補償をしようかと提案したのに対し、韓国側は、それは自分らで執り行うのでまとめてお金をくれ、と言ったのでした。そして労働者への補償金を、北朝鮮の分まで「預かった」韓国政府は、そのお金を全部ピンハネして開発に投入しました。その結果が有名な「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれる高度経済成長だったわけです。
 従って、戦時労働者が補償を請求するべきは韓国政府であり、日本は法的に一切関係がありません。
 しかし韓国の裁判所は、「法ばかり優先する日本はけしからん、法匪とはこのことだ」とばかりに、新日鐵や三菱などに対し慰謝料の支払い命令を下したのでした。
 そのことに対する報復と考えるということは、実際にはこの判決は無理があるということを、韓国人もなんとなく察していることになりそうですが、そんなこととは決して言いません。
 日本人の中にも、この措置を報復だと考えている人が少なからず居るようですが、そうではなさそうです。
 戦略物資横流しの疑いのある韓国をそのままホワイト国として扱い続けていれば、今度は日本が国際的な批難をされる立場に立たされるわけですから、言ってみれば今回のは自衛措置です。ただ、韓国から泣きついてきたのをことごとくはねつけて現在に至る日本政府の態度には、
 「いまさら、どのツラ下げて……」
 という、若干の報復的気分があったのは否めないかもしれません。
 しかしながら、建前としてはあくまでも、戦略物資の行方に不詳な点があったというだけの理由です。報復をするとすれば、実はこれからなのでした。
 こういうとき、日本という国は、歯がゆいほどに慎重です。当の韓国はどうでも良いとしても、他の国から一切批難の声が上がらないように念入りに根回しをしつつ、粛々と進めてゆくのが常です。かつての日韓併合の際も同様でした。韓国では併合は強要されたものであり、従って不法(国際法違反)だったという説がすでに「既成事実」となっているようですが、とにかく当時併合を批難した国はひとつも無く、むしろ好ましいことだと受け取られていました。何年か前に英国の国際法学者をまじえて検証した際にも、日韓併合にはなんら違法性は無かったという結論に達しています。
 日本が報復をこれからはじめるのだとしたら、それはホワイト国外しなどという生ぬるいものではないでしょうし、それでいて他の大半の国からは、批難の声などほとんど上がらないような方法を採ることになるでしょう。そこまで綿密に策を練った上で「始めた」に違いないと思います。

 経済産業省がおこなったパブリックコメントの募集では、今回のホワイト国外しの措置について、異例の4万5千通もの回答が寄せられ、その95%が賛成、わずか1%が反対、残りの4%は賛否明らかでないコメントだったとのことです。パブリックコメントに回答する人はこの問題に関心を持っている人だけでしょうから、国民の95%が賛成とまでは言えないでしょうが、それにしても日本でこの種のアンケートを採って、ひとつの選択肢に95%が集まるというのは滅多にあり得ないケースです。ネトウヨの組織票だ、などとわめいている向きもあるようですが、パブリックコメントというのは一般のブログのコメント欄などとは違い、すべて記名式で、同一のアカウントからは1回しか投稿できません。別のアカウントを用意すれば複数投稿できるかもしれませんが、4万3千近いアカウントを捏造するなどということができるはずもありません。日本人は、最近の韓国の振る舞いに、本当に怒っているのです。
 ここ数年、「嫌韓」が徐々に弘まっていることに関して、「日本社会の閉塞感の顕れで人々が排外的になっている」とか、「韓国の成長ぶりに嫉妬を感じている」とか、さまざまな的はずれな分析がおこなわれてきました。なぜどの論者も、いちばん簡単な理由、すなわち「それほどに日本人は怒っている」ということを口にしないのか不思議でなりませんでした。
 もしかして論者たちの意識下に、「日本人が韓国に対して怒るなどということがあってはならないんだ」というような変な固定観念があったのかもしれません。しかし、併合期の「過酷な支配」については賞味期限が切れ、「慰安婦」もいい加減底が割れ、韓国側からは「徴用工」がごときカス札しか切ることができなくなったいま、日本人はようやく、「韓国に対して怒る自由」を手に入れつつあるような気がします。そしてそれは、私がずっと言ってきた、「普通の国同士の関係」への第一歩というものでしょう。

(2019.8.3.)

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