忘れ得ぬことどもII

半島、風雲急なり

 朝鮮半島の状況が、かなり風雲急を告げるものになりつつあるようです。
 一昨年末の日韓合意に反して釜山の領事館前に慰安婦像が建てられたことへの対抗措置として呼び戻されていた長嶺安政大使が、4日に急遽帰任となりました。慰安婦像の問題に関しては、なにひとつ進展が無い状態での帰任でしたので、日本でも「外務省のヘタレ」だの「岸田(外務大臣)は売国奴か」などと悪口が飛び交いましたし、韓国側でも「日本が我慢較べに負けて折れてきた」というような受け取りかたが目立っていました。
 しかし、韓国側になんの変化も無いのにいきなり帰任、しかもその発表がわずか1日前の3日の話とあっては、他に急を要する事情が発生したと考えるのが普通でしょう。
 実際のところ、大使が呼び戻されてから2ヶ月以上が経っていましたが、つい先日までは別になんの不都合も無いような状態でした。そもそも韓国政府のほうも朴槿恵大統領が在職中に起訴され勾留されるという異常な事態で、機能不全に陥っていましたから、日本大使と責任を持って対話できるような人物が不在でした。そうでなくとも、朴大統領は就任以来長いこと日韓首脳会談に応じないままで済んでいたわけで、

 ──もしかして、韓国とは正式な交流なんか無くなっても、誰も困らないんじゃ?

 と考える日本人がだいぶ増えていたようです。そして今回、大使を召還してもこれまた何事も無いので、従来「お隣の国だから」ということでなんとかご機嫌を取らなければいけないような強迫観念を覚えていた韓国という国が、実は日本にとって何ほどでもなかったのではないかという考えが徐々に浸透しています。
 何ほどでもない、などというと軽視しているみたいですが、そういうことではなく、隣国だからという理由で向こうの数限りない理不尽な要求や侮辱を大目に見る必要は別に無かったということです。つまり、「普通の外国」として見ればそれで良いのだということが、多くの日本人にわかってきたのでした。私も以前から、「お隣韓国」と妙にベタベタした言いまわしをしているテレビ番組などがどうにも気持ち悪く、「普通の外国」であれば充分だと思ってきましたので、このところの情勢変化はむしろ好ましく感じています。

 ともあれ、そんなわけで別に困っていなかったのに、急遽大使を帰任させたというのは、韓国が問題なのではなく、北朝鮮がからんでいると見るのが当然でしょう。
 ポンポンとミサイルを打ち上げたり、この前は金正恩の異母兄金正男氏の暗殺事件があったり、最近の北朝鮮は、だいぶ調子に乗っていたふしがあります。USAオバマ前大統領が、USAが事実上「世界の警察官」の役を下りるというような発言をしていたので、いささか舐めてかかっていたのかもしれません。USA本土に届くミサイルを開発したなどとも言い出しました。
 あとを継いだトランプ大統領は、いろいろと勇ましい発言が多いものの、どこまで本気なのかわかりづらく、どうせ実際には大したことはできまいと踏んだのか、あるいはUSA国内をまとめるのに時間がかかるだろうからその前にひとつ示威行為をしておこうともくろんだのか、とにかく北朝鮮は以前にも増して傍若無人な行動を見せつけるようになっていました。
 実は戦前の日本なども読み間違えてひどい目にあったのですが、USAという国はわりと豹変することがあります。そして外部から考えているよりも大統領という存在の重みが大きいのです。
 トランプは選挙で勝ったけれども、USAで大きな発言力を持っている層からは毛嫌いされていて、容易に思いどおりにはできないだろう……と見るのが、まあ自然なのかもしれません。しかし、USAでは大統領が替わると、特に大統領の所属政党が変わったりすると、役人もかなりの程度入れ替わります。日本で言えば局長クラスどころか、課長か主任クラスくらいまで総入れ替えとなります。だから、大統領が役人たちの慣習の壁にはばまれて思った行動が取れないという、日本の霞ヶ関みたいなことはまず無いのです。
 戦前の日本も、USAとの戦争を避けるために、社会的影響力のありそうな人々に対していろいろと工作をおこなったものでしたが、USAの世論は対日強硬政策に向かってなだれ落ちてゆきました。講演会などを頻繁に開いて、庶民相手にアピールし続けた宋美齢などによる中国側の工作に完敗したのです。USAの動きを予測するには、オピニオンリーダー的な少数の人間に眼を奪われていてはダメで、一般庶民の好悪の向きを捉えなければなりません。これをポピュリズムと呼ぶ人は居るでしょうが、良い悪いの問題ではなく、USAはそうなのだということを理解しておかなければならないでしょう。
 そういう意味では、最近の北朝鮮もUSAの動きを読み間違えた感じです。トランプ大統領は北朝鮮の動きに業を煮やし、金正恩の首を取ると宣言しました。
 そんな中、米中首脳会談がおこなわれましたが、習近平総書記はトランプ大統領のコワモテにすっかり気を呑まれてしまったか、写真でも引きつった笑顔に終始していました。習氏もまた、オバマ前大統領の消極的態度により、USAを少々舐めていたひとりでしょう。トランプ氏はこの会談で、北朝鮮に関するなんらかの言質を習氏から取ったものだと見られています。

 長嶺大使の帰任は、米政府から日本政府に対しなんらかのサジェスチョンがあった結果としか思えません。これに先立ち、トランプ氏と安倍晋三首相とが30分に及ぶ電話会談をおこなったという話もあり、長嶺大使がそれによって何かの特命をおびてソウルへ戻ったのは、まず間違いないでしょう。
 大使はソウルに着くと、すぐさま韓国政府に面談を要請しました。朴大統領は収監されていますので、代行の人と話し合う必要があったのだと思います。
 ところが、愚かにも韓国政府は、この面談要請を蹴ってしまったのでした。
 事前の申し入れも無く非礼だというのです。韓国政府としては、自分たちが慰安婦像設置を差し止められなかったとはいえ、日本の大使召還でメンツを潰されたような想いがあったと思われ、その感情が先行して、

 ──いまさら、どのつら下げて……

 と腹立ち紛れに却下したというところでしょうか。また、責任を持って面談に応じられる立場の者が誰も居なかったとも考えられます。
 しかし、タイミングと国際情勢を考えれば、長嶺大使がUSAもからむ重要案件を携えてやってきたことは自明であり、韓国政府はいかなる犠牲を払ってでも大使との協議をおこなうべきではなかったでしょうか。何しろ、USAの在韓国大使というものが、いまだに任命すらされていないのです。
 韓国という国は、「最悪のタイミングで最悪の選択肢を選ぶ達人」などとも揶揄されています。前身の李氏朝鮮とか高麗国とかの時代からそうなのであって、いつもつまらぬメンツにこだわって好選択の機会を失い続け、結果的に常にババを曳いた形になるのでした。その過程と結果を反省材料にして次に活かすということもやらず、必ず「恨(ハン)として呪詛と被害者感情で埋めてしまうために、悪いことはすべて他人のせいだと思ってしまい、自分自身の問題点を洗い出すということをしません。それゆえ何度でも同じ失敗を繰り返すことになります。すなわち、最悪のタイミングで最悪の選択をし続けます。
 どうも今回も、日本との関係を改善したり、USAから情報共有をして貰ったりする好機を、みすみす逃してしまったように思われます。自分たちに密接に関係した話だったのに。
 そう、韓国と北朝鮮は朝鮮戦争「停戦」しているだけで、まだ終わらせたわけではありません。戦争の終結は、きちんと条約を取り交わすことで明示しなければなりませんが、韓国と北朝鮮はそれをやっていないのです。
 韓国が北朝鮮と較べものにならないほどの経済大国になれば、自然と北朝鮮もひれ伏して半島が統一されることだろうという甘い考えを持った人も多かったのだと思います。日本人の中にもそう信じて韓国を支援したり技術を伝えてやったりした人が大勢居ました。しかし、北朝鮮はそんなにヤワではありませんでした。また韓国のほうも、日本その他からの多大な支援による成功を自分の実力だと勘違いしたふしがあります。
 結果、北朝鮮が韓国にひれ伏すどころか、従北派などと呼ばれる勢力が韓国内でのさばりはじめ、逆に韓国のほうからひれ伏しかねないような状況になっています。間もなく新しい大統領を決める選挙がおこなわれますが、立候補者の大半が従北派だというのですからえらいことです。米中にこづき回され、いくら虚勢を張っても日本にはどうしても勝てず、経済状況も悪化の一途を辿っている現状では、たとえ国は貧しくとも米中を手玉に取って、日本に向けても恫喝のミサイルを撃ち続けている北の同胞が、かえってまぶしく見えているのかもしれません。この分だと、韓国はまたもや最悪の選択をしそうです。
 長嶺大使は重ねての面談要請はしていない模様で、たぶんもう北朝鮮対策について韓国と歩調を合わせることを断念したのでしょう。いちど面談を要請してみて、ダメだったらもういいよ、と指示されていたのかもしれません。
 大使の帰任の目的は、邦人保護のためであるということを、もう大使本人も、日本政府も、堂々と言うようになっています。保護しなければならない事態が近づいていることは、もはや既定事項とも言えましょう。
 こんな時に大統領が不在で、唯一重大情報を与えてくれそうだった日本大使との面談をも断る韓国政府。末期症状です。

 シリアアサド大統領が化学兵器を使用したというので、トランプ大統領はためらいなくシリアに空爆をかけました。
 これはどうも、「トランプは言ったことは実行する男だ」ということをアピールする目的があった気配があります。だとすればシリアは当て馬に使われたようなもので、気の毒としか言いようがありませんが、ともあれこれは北朝鮮への警告でもあると、ほかならぬ米国務長官のティラーソン氏が明言しました。
 そして実際に、米海軍の空母打撃群が、黄海側からも日本海側からも、北朝鮮に迫りつつあります。
 ハリウッド映画の主人公なら、
 「ちょっとおイタが過ぎたようだな」
 というようなセリフを言うところかもしれません。
 しかも今日になって、15万人規模の中国軍が中朝国境に向けて進軍をはじめたという報もとびこんできました。明らかに半島有事に備えての行動であり、たぶん国境を越えて逃れて来るであろう連中を押し戻すのが任務であろうと思われます。先日の米中首脳会談でそんな話も出たのかもしれません。
 さて、ここ数日のうちに、何が起こるのでしょうか。
 自暴自棄になった北朝鮮首脳部が、ミサイルを乱射する可能性も無いではありません。その多くが日本に向けられているからには、日本もうかうかしてはいられません。迎撃の準備はしておかなければならないでしょう。
 なおトランプ大統領の支持率は、シリア爆撃以来うなぎ上りだそうです。あれほどセレブ層や「意識高い系」に嫌われて反対デモまで起こされていた大統領ですが、USAというのはどこかと戦うとなると挙国一致で盛り上がる国であり、このあたりも戦前の日本を含む敵国がよく読み違う点です。
 日本も、いつまでも森友学園だの共謀罪だのでぐだぐだやっている時ではなさそうに思えます。USAのような挙国一致になれとは言いませんが、少しは時と場合を考えろと、主に野党の諸氏に言いたくなります。本当に、どうする気でしょうか。

(2017.4.10.)

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