忘れ得ぬことどもII

Zoomの初利用

 Zoomというアプリケーションを2日連続で使う機会がありました。
 いまさら説明も要らないかもしれませんが、インターネットを介するミーティング用のアプリケーションです。武漢ウイルス騒ぎで社員に在宅勤務(テレワーク)を求める会社が増えたために、にわかにクローズアップされました。つまり、家でふだん使いのパソコンやスマートフォンがあれば、居ながらにして会議に参加できるというわけです。昔からネット上によくあったチャットルームの進化形とも言うべきものかもしれません。
 情報の機密性という点ではいささか脆弱であることが指摘されています。だから新製品の企画会議なんてことに使うのはあまり感心できないようですが、私ごときが参加するミーティング程度であればそんな問題もありません。
 一昨日の晩、板橋区演奏家協会の役員会があり、昨日の晩はChorus STの集まりがあったのでした。いずれも、通常集まる場所が使えなくなったための苦肉の策みたいなものです。
 演奏家協会は、いつも板橋の文化会館その他、区立の施設を借りて、月1回会議を持っています。Chorus STは、巣鴨教会というところを借りて週1回練習しています。いずれも密閉、密集、密着の三密状態になる危険が大きく、とりわけ区の施設などはほとんど閉鎖されています。少なくとも連休明け、たぶん5月いっぱいは開けないものと思われます。6月になれば開けるのかどうか、それはこの先の武漢ウイルスの蔓延次第ですが、現状では5月中に下火になるという目算はほとんど立てられません。
 合唱の練習に至っては、集まって声を出すというあたり、このところの雲行きではもっとも忌むべき行為となっています。歌ったり笑ったりすると免疫力が高まるそうなので、悪くなさそうな気もするのですが、実際どこかの合唱団の練習でクラスターが発生してしまったという事実があるため、強行するわけにもゆきません。

 そんなわけで、まずは演奏家協会で、今月の会議をZoomで執りおこなうと通知が来ました。私はこういう情報には疎く、最初はZoomというのがなんなのかも理解できませんでした。幸い、通知のメールに記されていたリンクをクリックすると、Zoomのダウンロードは自動的にできるようです。それに先立って説明のページを読みましたが、どうもZoomをパソコンで使用するには、webカメラが必要になるらしいことがわかりました。スマホならそのまま使えますが、私はまだガラケーであってスマホは持っていません。
 webカメラを持っていないので、大丈夫だろうかと心配になりました。音声に関しては、ずいぶん前に使っていた、何代か前のパソコンに附属していたマイクとスピーカーをいまだに使っており、これでなんとかなりそうです。音声だけでの参加も可能とは聞きましたが、なにしろZoomというものを使ったことがないので、様子がわかりません。
 とりあえずwebカメラを買ったほうが良いだろうかと思って、値段を調べてみました。
 まさしくピンキリです。安いのは2000円足らずでも買えるようでしたが、高いほうは万単位となっていました。ユーチューバーでも志すのでなければ、そんなに高性能なカメラは必要ないような気がします。いちばん安いので充分でしょう。
 それで、近くの量販店に行って、買ってこようとしました。
 パソコン周辺機器というコーナーを、眼を皿にして歩き回ってみたのですが、webカメラを売っている場所がわかりません。しばらくむなしく探しまわり、そのうち一緒に行っていたマダムが店員に訊いてくれました。すると、答えは非常に明確で、
 「webカメラは売り切れで、在庫もありません」
 とのこと。
 テレワークの人たちが、それこそZoomなどでの会議のために、こぞって買い求めたのかもしれません。それで急激に品薄になっていたのでしょう。マスクやトイレットペーパーに続いて、webカメラも売り切れとは。
 ならば通販で、と思って、値段を調べたときのサイトにアクセスしてみました。値段を調べたときには気がつかなかったのですが、こちらも、品物のお届けは早くとも4月28日以降、というものがほとんどで、会議には間に合いそうもありません。諦めて、音声参加ということに決めました。

 ところで、いまのパソコンでマイクを使ったこともありません。ちゃんと音声認識できるのかわかりません。
 これも調べてみると、Windows10には最初から音声認識機能が備わっているとのこと。まあ、そりゃそうだようなあ、とも思います。特にドライバなどを入れなくとも、マイクを接続しさえすれば使えるような感じでした。確かにパソコンの筐体を見ると、スピーカーのジャックの隣にマイクのジャックもついています。
 ただ初回だけは一応設定が必要なようでした。マイクをつないで、説明のあるサイトを参考に設定してみます。これで、Excelなどはマイクに向かって「エクセル」と言うだけで起動できるそうです。またWordに文章を入力するのも、音声でできるらしい。
 もっとも、日本語の文章を間違いなく漢字変換しつつ入力するというのは、それほど信頼性が無いようです。欧米のライターなどは、昔から口述筆記の形をとる人が多いそうなので、そちらの伝統による機能でしょう。ボイスレコーダーに好き勝手しゃべりまくって録音し、あとで秘書などが(もしくは自分で)それを文字に起こすという執筆方法は、「刑事コロンボ」で作家が出てくる話などでもよく眼にしました。日本の作家はあまりそういう執筆方法をとらないように思います。耳から聞くだけでは用字がわからないことが多いからでしょう。
 私も、ExcelやWordで音声入力をおこなうことはまず無さそうですが、とにかくパソコンが音声認識をしてくれることはわかりました。

 そして当日。まず23日(木)の晩、通知されたIDとパスワードを入れて、会議室にアクセスしてみました。
 開始時刻になると、画面が大きくなり、役員仲間の映像が映し出されました。メイン画面には主に発言している人が映り、上のほうにテレビのワイプ画面のように小さく他の人の姿が映っています。
 音声のみで参加している私はどうなっているかというと、ワイプに名前だけ出ていました。そして、メイン画面にはいちども切り替わりませんでした。
 それにしても音声だけの参加は私だけだったようで、そんなにみんなちゃんとwebカメラを持っているのだろうかと驚きましたが、考えてみればたいていの人はスマホを使っていたのでしょう。スマホを持っていない人が少ないということです。しかし、スマホはおろかガラケーも持っていない佐藤俊会長が、しっかり画面付きで参加していたので意外でした。ご本人がwebカメラを持っていたわけではなく、奥様のパソコンを使っていたそうで。
 画面に映っているとはいえ、誰の声だかわからないことになりはしないかと心配していましたが、音質はわりと良く、発言者は非常によくわかりました。ある程度話しているとメイン画面に切り替わりますし。
 また、私の声がちゃんと届いているかどうかも、自分の声はスピーカーから出てこないので気になっていましたが、これも充分にクリアに聞こえていたようです。翌日のChorus STのミーティングのときに、私の声は他の人よりむしろクリアに聞こえていると言われました。古くてちゃちなプラスティック製とはいえ、いちおう指向性のあるマイクであるだけに、スマホとか、webカメラ附属のマイクなどに較べると音を拾いやすかったのかもしれません。
 私ははじめてでしたが、役員の何人かはすでにZoomを使ったことがあるようで、手慣れた感じでした。というか、最近はオペラのための合唱講座を、Zoomを利用してやっていたようです。
 6月のオペラ公演が実現できる可能性は、いまや限りなく低くなりましたが、オペラに出演する合唱を区民有志から募っており、彼らに歌唱や演技の指導をするのを「区民講座」ということにして、そのための予算を貰い、公演の費用に充当しているというのが実情です。現在、上述のとおり区の施設がすべて閉鎖されていて、稽古も当然ながらできなくなっていますが、いちおう「講座」としての形をとり続けていないと予算が下りず、予算が下りなければ合唱指導者や練習ピアニストなどがすでに仕事をした分の謝礼すら払えませんので、Zoomとか、それを録画したデータなどを利用して「講座」を続けているのでした。
 聞くところによると、ピアノの先生などがそういう方法で「オンラインレッスン」などをしているケースもあるようです。いろいろな使い途があります。
 Zoomの1回のセッションは40分間で、時間になると切れてしまうのですが、ホストがあらかじめ利用時間を登録してあれば、同じIDとパスワードで何度でも入室できるのでした。Chorus STのほうのホストはそれを知らなかったようで、ふたつのIDを取得していましたが、その必要はないようです。ただし、役員会はみんな自宅からの参加とあってなんとなくだらだらしてしまい、話も長くなる傾向があって、ふだんより30分以上余計にかかってしまいました。ホストは2時間ということで登録していたようで、最後のセッションではそれまでのIDが使えなくなっていました。そうなるとホストから新しいIDが送られてくるのを待つしかなくなります。
 たぶん来月の役員会も、場所は借りられない可能性が高く、やはりZoom会議になりそうな雲行きです。それまでにはwebカメラを入手したいと思いました。

 24日(金)のChorus STのミーティングは、マダムも団員なので参加しました。前の晩に役員会をやっていたおかげで私にも様子がわかっていて、やはりはじめてであったマダムに余裕を持って助言できました。
 背景が映り込んでしまうので家の中が汚いのがばれるとか、私と別の部屋からスマホでアクセスするために夫婦仲が悪いように思われるとか、いろいろ文句をつけて、不参加にしたいような口ぶりでもありましたが、いちおう参加ということにしました。
 Chorus STのZoomミーティングは、これまでも2回ほど開催されていました。ただ、私は『ラ・ボエーム』の編曲作業が立て込んでいたので失礼していました。この編曲も、今年は使われない可能性が高くなっており、そもそも作業料が支払われるかどうかも心許ないありさまです。演目自体は来年に持ち越す予定になっていますが、オーケストラのメンバーが同じ編成で集められるかどうかはまた来年の様子次第であり、ことによるとまたアレンジし直さなければならないかもしれません。担当者は、なんとか編曲料が出るように考えてみると言っていましたが、この約1ヶ月の作業が無報酬になるのでは、やりきれない気もします。
 とはいえ、ここしばらく、この作業をしていたからこそ、気をゆるめすぎずに済んだとも言えます。役員会で6月公演が事実上無理そうだという話が出ても、もう少しで編曲は終わるところでしたから、とにかく完成させようと思い、実際今日(25日)作業を済ませました。パート譜作成とか印刷製本などはこれからで、はたしてこの続きでやる意味があるかどうかは微妙ですが、とにかくひと区切りつくところまでは終わらせたので、自分としては満足しています。
 そして、終わりが見えていたからこそ、Chorus STのミーティングにも参加する気になったのでした。
 Chorus STでも、音声だけの参加は私だけでした。ときどき、画像を送る設定が不安定で名前だけになっている人も居ましたが、最終的には姿が見えていました。自分だけ画面が無いというのもやはり寂しい気もし、これはやはりwebカメラを注文しておいたようが良いかもしれない、とあらためて思いました。
 合唱団のミーティングですので、こちらではやはり「歌えない」ということにストレスを感じている人が多いようでした。今後の練習をどうしてゆくかという話をはじめても、とにかく武漢ウイルスが今後どうなってゆくのか誰もわからない以上、繰り言にしかなりません。
 演奏会は来年以降に持ち越しということになるでしょうが、私の『続・TOKYO物語』については、初演を済ませないうちは刊行もできないということで、何かの形で先行初演ができないものだろうかと思っています。しかし、なかなかそれも難しそうです。
 まあ考えてみれば、今年予定されていた演奏会のために委嘱された作品だって多いはずで(小樽商大グリークラブのOB会でも、100周年記念ということで松下耕さんに新曲を委嘱していました)、それらは揃って延期などになっているでしょう。初演後に刊行を予定されていた曲だっていくつもあると思います。そういうのが一斉にダメになったわけなので、私もとりたてて文句を言うつもりはありません。
 なんとか在宅のままで練習のできる方法が無いかとみんなで考えてみましたが、良い案を思いつくわけでもありません。需要が高まって、みんなで一斉に声を合わせることのできるアプリケーションが開発されでもしないと、オンライン合唱というのは難しいでしょう。

 そんなわけで、Zoom初体験はなかなか面白かったのですが、いつまでもこんなものに頼っていたくはないという気持ちもあります。早いところウイルスが終熄して貰いたく、そうでなくとも感染者は増えるものだという事実を最初から計算に入れた社会の動きが出てくることを期待したいところです。

(2020.4.25.)

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