忘れ得ぬことどもII

ラオス大水害

 2018年夏の西日本の水害も大変でしたが、ラオスで起こった大水害にもびっくりです。
 驚くべき広域が泥水でいっぱいになっている航空写真は衝撃的でした。また、家がほとんど水没し、屋根だけ顔を出しているところに、何人もの被災者が登って救助を待っている写真がたくさん公表されています。舟でもないと動くに動けません。当然ながら食糧も無いし、飲用水もありません。水はいやになるほどありますが、文字どおりの泥水で、とても飲めたものではないでしょう。無理に飲んだら赤痢にでもかかりそうです。
 日本のような迅速な災害対応ができるところでもなさそうです。すでに数万人が住むところを無くし、死者や行方不明者も日々増え続けています。水害の行方不明者というのは、ほとんど生存の可能性が無いとも言われています。なんとか一刻も早い救援が待たれます。
 上流のほうにあった水力発電用のダムが決壊したのが原因だそうです。ダムは韓国企業が請け負って建設していました。韓国・ラオス・タイの合弁会社であったようですが、実際の建設に携わっていたのは韓国企業だけだったようです。
 このダムが、手抜き工事だったのではないかと疑われています。実際ラオス政府はそのような発表をしており、韓国からの調査隊の入国を拒絶しているとのこと。4人の先遣隊だけ受け容れています。手抜き工事の証拠隠滅を謀られるのではないかと心配した可能性もあります。

 本当に手抜き工事であったのかはわかりませんが、工期を何ヶ月も繰り上げての完成であったことは確かなようで、しかも繰り上げ竣工の功に対し2000万ドルのボーナスが出ていた、なんて噂もあります。早く仕上げることでボーナスが出るのであれば、多少手を抜いても急ぎたくなるかもしれません。
 ダムの跡地の写真が公開されていますが、ほとんど跡形も無くなっています。ダムのような構造物がそんなに跡形もなくなるのは不思議なことで、コンクリートの瓦礫などが大量に残っているはずなのですが、それが無いということは、そもそも土手に薄くアスファルトをかぶせた程度の工事だったのではないかと推察されます。
 筐体にコンクリートを使わないロックフィルダムというのもありますが、それなら何層にもミルフィーユのように重なった石積みがなければおかしいわけで、それも見当たりません。
 やはり手抜きの疑いが濃くなってしまうようです。
 予想を超えた大雨が降ったのは不運というものだったでしょうが、このダムの様子では、いずれ近いうちに同じ災害が惹き起こされたのではないかと思われます。きちんと検証しておく必要があるでしょう。
 ネットではそのように、だいぶ詳細が知られてきているのですが、不思議なことにテレビなどでのこの水害の扱いは小さく、採り上げたとしてもダムの施工会社などについてのつっこんだ報道は為されていないようです。日本人が巻き込まれていないからという理由なのかもしれませんが、ネットでは、韓国企業の手抜き工事であったから「報道しない自由」を行使しているのだ、と勘ぐられています。そんなことはないと示して貰いたいものです。

 ラオスという国にはあまり馴染みがありません。インドシナ半島の中でもひときわ地味な印象があります。実際のところ、どの国とどのように接しているのか、正確にわかる人は少ないのではないでしょうか。
 遅ればせながら世界地図を見てみました。インドシナ半島諸国で唯一海に面していない内陸国であるようです。東はヴェトナムと、西はタイと長い国境を接し、南にはカンボジアがあり、北側でミャンマーおよび中国とわずかに接しています。
 面積は23万6800平方キロで日本のおよそ3分の2、人口は約700万人と東京23区よりも少なく、国土のほとんどが山林に覆われています。ただし最近は乱伐の影響で森林資源が危なくなってきているとか。
 地理的にヴェトナムの影響を受けやすいようです。タイとのあいだにはかなりの程度メコン河が横たわっているので、それが防波堤となって大量の影響は受けにくいのですが、ヴェトナムとの国境は主に安南山脈で、それほど急峻な山岳があるわけでもありません。インドシナ戦争のときもヴェトナム戦争のときも巻き込まれまくり、ヴェトナム戦争終結とほとんど同時に現在の社会主義体制が固まりました。
 しばらく鎖国状態でしたが、現在は観光業にも力を入れています。とはいえカンボジアのアンコール・ワットのような有名遺跡に恵まれてはおらず、ふたつある世界遺産(ワット・プー遺跡ルアン・パバンの街)もまあB級でしょう。
 人の少ない、静かな国という印象があるので、まああんまり俗化してほしくはないような気もします。とはいえもちろん現地の人々には豊かに暮らして貰いたいとは思うし、そのあたりは自然豊かな発展途上国を考えるときにどうしてもぶつかってしまうジレンマと言えそうです。
 豊かな水資源を活用した水力発電はかなり盛んで、人口の少ないラオス国内だけでは使い切れないほどの電気が作れるので、隣のタイに売っているそうです。「東南アジアのバッテリー」などと評されることもあるとか。だとすると、案外経済的には余裕があるのかな、とも思えます。
 水力発電用のダムは、従来は主に日本が受注して建設してきたそうで、そんなところに関わっていたとは知りませんでした。ただ最近、メコン河流域に埋蔵されているボーキサイトやカリウムなどの資源を狙ってか、中国企業の進出が著しく、首都ヴィエンチャンには中国企業だけのショッピングモールなどもできているそうです。中国は日本が受注していたダム建設にもだいぶ食い込んでおり、さらに負けじと韓国企業も乗り込んできたところで今回の大決壊となってしまいました。

 東南アジア地域で、中国企業や韓国企業が、日本よりだいぶ安い金額で工事などを受けてしまうことが目立っています。どの国もそう潤沢に予算があるわけではないので、つい安いほうに手を出してしまうのでしょう。また残念ながら、これらの国々ではまだ政治家や官僚などへの袖の下が有効であると思われます。日本企業はあんまりそういうことをしないので、入札で負けてしまうことが少なくありません。
 ところが、安さに惹かれて中韓に頼んだところで、後悔するはめになったところも枚挙にいとまがありません。有名なのはインドネシアの高速鉄道建設でしょう。インドネシア政府は日中に競わせ、しかも悪質なことに日本側が作成した詳細な調査資料をすべて中国側に横流しした上で中国に発注したのでした。インドネシア政府としては、日本と中国を手玉にとってうまく立ち回ったつもりだったかもしれませんが、その後いっこうに工事は始まらず、にっちもさっちも行かない状態になっており、国民からは
 「なんで最初から日本に頼まないんだ」
 と非難の声が囂々だそうな。言わんことかという気がします。
 そうでなくとも、中国が請け負うと、労働者をみんな中国から連れてきてしまい、地元で雇うということをしないため、せっかく大規模工事がはじまっても、地元の経済にはちっとも貢献しないなんて話もよく聞きます。
 日本の施工は、そのときは多少高くつくかもしれませんが、長期間にわたって安全に使用できるようになっているので、長い目で見ればお得なはずです。台湾でも朝鮮半島でも、日本統治時代に造られたダムなどは、75年以上経過した現在でも、いまだに有効に機能しています。北朝鮮など、おそらくむかし日本が造ったダムが無ければ、その生活の悲惨さは現在の比ではないでしょう。
 今回決壊したダムも、韓国企業の手抜き工事疑惑についてはもちろん厳しく追及されなければなりませんが、発注側であるラオス政府の役人が袖の下を受け取ったりしていなかったか、そのあたりもきちんと検証しておかないと、同じ悲劇が繰り返されないとも限りません。

 東南アジア諸国の料理はそれぞれに特徴があって興味深いのですが、ラオス料理というのは寡聞にして知りませんでした。主食がコメであるのは周辺諸国と一緒ですが、ラオスはその中では珍しく、もち米を用いるそうです。種類としてはインディカ米に属するらしいのですが、もともとジャポニカ米に較べて粘性の少ないのがインディカ米の特徴であるのに、その中でのもち米というのがどういう食感なのか、ちょっと想像しづらいものがあります。中華料理のチマキみたいなものを想像すれば良いのでしょうか。
 そのもち米を煮込んで作るおかゆとか、あるいはチャーハン風のもの、卵や香草で味を付けたカオピンという料理などが代表的であるようです。白いままのごはんはあんまり食べないのかもしれません。
 肉料理、野菜料理もいろいろ種類があり、代表的な料理にラープがあります。肉を細かく切って、レモングラスやミントなどのハーブをたっぷり加え、ライムジュースで味付けをして仕上げる炒め物だそうです。肉はいろんなものが使われ、魚が使われることもあるようです。
 サラダのたぐいも充実していて、青パパイヤや青バナナを使ったもの、名産であるササゲ豆を使ったものなどがあります。一体にスパイスやハーブをふんだんに使ったヘルシーな料理が多いとのこと。
 さすがにこんなところの料理を供する店は日本にはないだろうと思って検索してみると、驚くべし、吉祥寺やら新宿やらに、ちゃんとラオス料理店が存在するのでした。ブータン料理店が代々木上原にあると知ったときも驚きましたが、本当に日本ではなんでも食べられるのだと感心するやらあきれるやら。ただしタイ料理と一緒になっているところが多いようです。味付けの傾向は似ているのかもしれません。いずれ食べに行ってみたいものだと思います。

 水害は下流域にあるカンボジアにも拡がりつつあるようです。このあたりは雨期の真っ最中ですので、まだまだ被害が拡がる可能性は高いでしょう。これが手抜き工事のせいであったら史上最大規模の人災で、賠償なども天文学的な数字になりそうです。とにかく内陸国であるだけになかなか水をはけさせるのも大変そうで、わが国などでもできる協力は惜しまずにやって貰いたいものだと思う次第です。

(2018.7.29.)

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