忘れ得ぬことども

血液型について

 血液型による性格判断のようなものは、もはやほとんど常識の域に達している感がありますが、冷静に考えればまるで根拠のない話であることは言うまでもありません。
 人に血液型を訊いて、
「ああやっぱりね。A型性格だと思ったよ」
などと納得する人は多いのですが、では逆に人の血液型を性格から当てろと言われると、偶然以上の確率で当たることはないようです。
 世の中でA型的と言われている性格要素はいろいろありますが、人間の性格というのはそう単純なものではないため、いろいろある要素の中でたいがいどれかは当てはまると考えた方が妥当です。当てはまったところだけ見て「血液型性格判断は当たる」と言ってみても、さして意味はありません。私はたまたまA型ですが、B型タイプとされる要素(例えば、凝り性なところ)でも、AB型タイプとされる要素(例えば、わりとひとりよがりなところ)でも、自分の中には存在していると思います。私の血液型を知らない人に、自分は何型だと言っても、
「ああやっぱりね」
という反応が得られることは、ほぼ間違いありません。

 楽しい談笑時の話題として持ち出している時にそんなことをいちいち主張するほど野暮ではありませんが、時々、いい加減にしたらどうだと言いたくなることがあります。ある会社の人事考査で血液型を考慮しているなどという話を聞くと、何をかいわんやという気分になります。
 科学的根拠が何もない、ということはたいていの人はわかっているとは思いますが、人によっては

 ──世の中には科学では割り切れないことがあるから……

 と固執する場合もあります。割り切れないことがあるのは私も否定しませんが、血液型性格判断がそれに該当するとはどうしても思えません。
 皆さんも、どうかそういうことはお茶会や飲み会の話題にとどめておいて、くれぐれも血液型で他人の人格を判断したりすることのないようにお願いします。

 A型にAAとAO、B型にBBとBOがあるということは、最近ではみんな知っているようですが、それが実際にはどういうことなのかということは案外ちゃんと認識されていない気配があります。私の友人がある時、

 ──みんな、自分の血液型を胸かどこかにプレートでつけておくといいよね。AAとかBOとか。

 と言いました。この男、全然わかってません。どこがいけないかおわかりでしょうか。

 実は、A型の人間が、AAであるかAOであるかは、どういう検査をしてもわからないのです。
 A型、B型、O型、AB型という4種類の血液型は、血清学的な分類です。血液中にA抗体というものがあるのがA型、B抗体があるのがB型、どちらもないのがO型、両方あるのがAB型です。これは血清反応検査をすればすぐわかります。献血の時に必ずやって貰えます。

 一方、AAとかBOとか言っているのは、遺伝学的な分類で、両親から因子をひとつずつ受け継いで、それが対になっているという考え方によるものです。AAは両方からA抗体の因子を受け継いだもの、AOは片親だけから受け継いだものというわけですが、血液検査でこれを区別することは不可能です。
 片親がA型かAB型、もう片親がB型かO型で、子供がA型であれば、片方にAの因子がありませんので、これはAOであると判断できます。また、両親ともAB型で、子供がA型であったとすれば、AAであるとわかります。
 しかし、両親ともにA型、あるいはA型とAB型の組み合わせだった場合、子供がAAかAOかは判断できません。上の方法で、両親ともAAだとわかっていればAAに違いありませんが、そのためには祖父母の代まで調べる必要があります。そこまで調べても、わからない時はわからないですし、血液型は意外と突然変異の確率が高く、1万組の両親にひとつくらいは、理屈に合わない血液型の子供が産まれることもあるそうですから、あてになりません。

 私の家族は、両親も妹もみんなA型なので、おそらく私も妹もAAだとは思いますが、それはあくまでその可能性が高いというだけで、確言はできません。AAとかAOとかいうのは、統計上の仮説でしかないのです。
 だから、刑事ドラマとかで、鑑識が血痕を調べて

 ──BO型です。

 なんて言ってたとしたら、嘘っぱちですから、大いに笑ってやりましょう。
 ましてや、A型の中でもAOだと微妙にO型の性格が混じる、なんてことはあり得ませんから、念のため。

(1999.4.4.)

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